中韓両国のビザ相互免除政策が本格的に始動したことで、中国吉林省の延辺朝鮮族自治州には韓国からの観光客が続々と訪れている。春の陽気とともに観光ブームが加速し、長白山(チャンベクサン)、延吉(ヨンギル)、図們(トゥメン)、龍井(リョンジョン)などが韓国人にとっての人気観光地となっている。
ソウル・仁川から延吉行きのフライトでは、韓国人搭乗率が5割を超え、「フライト2時間、時差で1時間得する旅」として韓国のSNS上で注目を集めている。
延吉朝陽川空港の到着ロビーでは、旅行会社「春の旅」の朝鮮族ガイド・鄭学峰さんが韓国語のプラカードを掲げ、韓国からの団体旅行客を手際よく案内している。旅行客は空港到着直後から「2泊3日ミニバカンス」に出発。まずは図們江で朝鮮族の郷土料理を堪能し、その後中朝国境を観光、そして長白山の壮大な自然を満喫する。延吉~長白山間の高速道路が開通したことで、所要時間はわずか1時間半に短縮され、アクセスも格段に向上している。
延吉朝陽川国際空港の統計によると、出入国する外国人のうち韓国人が96%を占め、そのうち85%が観光目的での渡航となっている。
韓国人観光客が訪れる注目スポット
長白山天池(チャンベクサン・テンチ)

特徴:標高2,189.1mに位置する世界最高所の火山湖で、中国最深(最大深度373m)の湖。全貌が見えるのは年間でおよそ90日。ベストシーズンは6~9月。冬は氷が1~2m厚くなり、5月下旬にようやく解け始める。
ポイント:観光のベストシーズンは6~9月または9~10月。ミニアプリ「長白山天池予報」で視界情報を事前確認するのがおすすめ。午前10時前に到着すると観賞成功率が高い。山頂は山麓より10℃以上気温が低いため、防風ジャケットを用意(レンタル可)。
図們江口岸(トゥメンコウガン)
特徴:中朝国境の重要な通過点で、「一目で二カ国を望む」ユニークな風景。北朝鮮の村や農地の様子を観察可能。
ポイント:5~10月が快適な観光シーズン。北朝鮮側の軍事施設の撮影は禁止。ドローンの使用、国境越え、物品の投擲は禁止されている。
朝鮮族民俗園
特徴:朝鮮族の伝統村落を再現。民族衣装のレンタルやキムチ作り体験などができる。
ポイント:午前9時前または午後3時以降の訪問で混雑回避。体験プログラムの一部は事前予約・別料金が必要。
物価の安さとグルメの多様性に感動 韓国人主婦がフルーツ爆買い

延吉市の西市場は、韓国の主婦たちにとって「買い物天国」と化している。
「このスイカ、1斤(約500g)たった10元(約200円)!ソウルでは160元(約3,200円)もするのに!」と、驚きの声が飛び交う。
フルーツや地元の特産品はコストパフォーマンス抜群で、延辺産のリンゴ梨はシャキシャキでジューシーと評判。マンゴーやスイカも品切れになるほどの人気ぶり。
延辺地域の朝鮮族グルメもまた、韓国人観光客の記憶に残る。もち米チキン、もち米腸、ドングリ寒天の和え物や「グォバオロウ(鍋包肉)」など、「ルーツは同じでも味が違う」料理の数々が驚きを与える。
旅行客のパク・ジフンさんはこう語る。「ここのもち米腸は、韓国の春雨入りより歯ごたえがあってうまい。鍋包肉はタレをつけずにそのままソースがかかっていて、めちゃくちゃ美味しいし安い!」
特に質の良い黄牛肉は、韓国の「韓牛」の5分の1の価格で、「まるでお金を拾った気分」と笑う声も。
「中国式幸福感」 韓国人観光客から高評価
早朝の延吉・水上市場は、地元の活気が満ちあふれている。アツアツのもち米腸や打糕(ダッコ)が韓国人観光客を魅了。
「このスープご飯、たった18元(約360円)で、牛肉がこんなに入ってるなんて!」と、韓国から来たキム・ミジンさんが写真を撮りながら感動していた。
SNS上では、東北の海鮮チヂミ、魚皮巻きご飯、サムゲタン、油条(揚げパン)と豆腐脳(トーフプリン)などが連日トレンド入り。
こうした街角の活気やローカルな朝食風景が、韓国人にとって「中国式幸福感」の象徴となっている。
人気のお土産商品「韓流+東北スタイル」でスーツケースがパンパンに
韓国人観光客の特産品購入平均額はおよそ5,000元(約10万円)にのぼる。松茸、スケトウダラ干物、黒きくらげ、榛(はしばみ)茸などが人気。
「韓国で松茸は1万ウォン超えるのに、ここなら2千元前後で産地直送!贈り物にぴったり」と話す旅行客も。
ガイドの鄭学峰さんによると、「スケトウダラは朝鮮では一般的だけど、韓国では希少で、焼酎のつまみに大人気」とのこと。
延吉産の果実フレーバー米酒も若者に人気で、「映えるお土産」としてSNSで話題になっている。
旅行予約が急増 ガイドは「団体が途切れず大忙し」
「ビザ免除政策が始まってから、毎日が満員です」と鄭学峰さん。4~5月は韓国人観光のピークで、旅行会社の100名を超えるガイドはほぼ休みなし。
「2泊3日の旅程は内容もバランスも良く、費用は3,000元前後とリーズナブル。低コスト高満足で、韓国からの団体旅行にぴったり」と語る。
「ひとつの団体を見送ったら、次の団体がすぐ来る感じです」と笑う鄭さん。ピーク時には、ガイド1人が月に7〜8組を担当することもあるという。
一つの都市に二つの民族文化 文旅部門が新たな観光商品を展開
延吉市は「一つの都市、二つの民族文化」が融合する中韓文化交流の最前線。
インスタ映えする「ウォールアート」巡りや朝鮮族の民族衣装体験、「延吉」ロゴ入りの文創グッズ購入など、創意に富んだ観光商品が次々と登場している。
さらに、旧工場跡地を文化空間として再活用。旧機関車工場をリノベーションした「延吉1978文創園」は、文化創造・消費・エンタメを融合させた新名所として注目され、都市に新たな文化的エネルギーを吹き込んでいる。