東アジアのシルバーエコノミー 日中韓の銀髪競争
(李達、東京)

65歳以上の人が人口の5分の1を超えると、その社会は「超高齢社会」に入る。
2026年、韓国はこの段階に入った。日本はすでに20年前からそのただ中にある。一方、中国については、国家衛生健康委員会が公表した統計公報によると、2025年末時点で65歳以上の人口比率は15.9%にとどまり、日韓より低い。ただし、60歳以上の人口が3億2300万人に達することによる圧力は大きい。「豊かになる前に老いる」ことが、同国にとって最も差し迫った課題の一つとなっている。
日中韓の3カ国は、共通する制度的出発点として、長期介護保険を選んだ。
日本は2000年に介護保険法を全面施行し、40歳以上の国民を強制加入の対象とした。サービスは在宅、地域、施設介護までを広くカバーする。韓国は2008年に老人長期療養保険法を施行し、日本の制度を参考にしながら、対象を要介護・認知症の高齢者により絞り込んだ。中国の道筋はやや異なる。2016年に試行を始め、2025年末時点で対象は92地域に広がり、加入者数は3億800万人に達した。2026年には、2028年末までに全国でおおむね全面的な制度整備を実現するという目標を明確にしている。
これは非対称な競争でもある。日本は最も早く走り出し、20年以上にわたって経験とデータを積み上げてきたが、その分、財政負担も最も重い。韓国は後発ながら、財閥グループとAI技術の結びつきによって、一部の分野では日本より速く進展している。中国は最も遅れてスタートしたが、政策主導と市場規模の相乗効果によって、急速に差を縮めつつある。三つの道筋、三つの速度。競争の焦点は「誰がより質の高いサービスを提供できるか」だけではなく、「誰がより低いコストで、より広い層をカバーできるか」にある。
共通する制度的出発点を持ちながら、3カ国の道筋は分かれ始めている。日本は介護ロボットに重点を置き、韓国はAIでリスクを未然に捉えようとしている。中国は政策と市場を同時に動かす。そこには、それぞれ異なる社会構造、産業基盤、政策上の論理があり、同時にそれぞれの弱点と難題もある。
より深いところにある要因は、文化である。欧米のシルバーエコノミーとは異なり、日中韓の3カ国はいずれも儒教文化の影響を強く受けている。高齢者を支えることは単なる個人の選択ではなく、家族の責任であり、社会的な共通認識でもある。この文化的土台が、3カ国のテクノロジーを用いた高齢者ケアを、単純な「技術による人手の代替」ではなく、「技術によって家庭と社会の共同介護を支える」方向へ向かわせている。
日本:介護ロボットの「国家的実験」
日本は世界で最も高齢化が進んだ国の一つだ。65歳以上の人口は3620万人で、総人口の29.4%を占める。縮小し続ける労働力と膨らみ続ける介護需要を前に、日本が選んだ答えは、ロボットで人手不足を補うことだった。
2026年、日本政府は介護ロボットを国家レベルの戦略に位置づけた。厚生労働省と経済産業省が連携して導入を後押しし、介護ロボットの購入費用については最大75%を政府が補助する。2026年度予算案では、ロボット導入補助金だけで約200億円が計上され、1施設あたり最大4000万円の補助を受けられる。中小規模の施設向けには、AI介護ロボット導入に特化した補助金も用意され、上限額は最大300万円に引き上げられた。
政策の後押しは、実際の成果にもつながり始めている。2026年8月、日本のスタートアップZEALSは「準国産」のヒューマノイドロボット「D1」を発表した。身長は約129.3センチで、ハードウエア、OS、AIモデルをすべて自社開発した。本体価格は500万円からで、2026年度中に100台の量産を目標とする。D1は研究室内のコンセプト製品ではなく、人手不足という介護現場の課題に直接照準を合わせ、1万時間の実稼働を目標に掲げている。
日本のサービスロボット市場は、2030年までに3倍の27億ドルへ拡大すると見込まれている。経済産業省の構想はさらに壮大だ。2040年までに18分野で1000万台のAIロボットを配備する計画だ。
もっとも、ロボットの普及は順調なことばかりではない。最大の壁は初期投資である。介護ロボット1台の価格は500万円で、中小規模の高齢者施設にとってはなお重い負担だ。日本政府は補助額を引き上げる一方、量産後には1台あたりの価格を500万円から300万円未満に下げることを目指している。
さらに注目すべきは、スタンフォード大学の研究結果だ。介護ロボットは人間の介護職を置き換えるのではなく、むしろ介護職を28%、看護師を39%、雇用全体を26%増加させたという。日本でロボットが担いつつある役割は「仕事を奪う」ことではない。「足りない人手を補う」ことだ。人を重い身体的負担から解放し、人にしかできない仕事へ向かわせるための存在なのである。
韓国:AI健康モニタリングをめぐる「財閥競争」
日本の「ロボット戦略」とは異なり、韓国が選んだのはAIによる健康モニタリングという道だ。
2026年4月16日、韓国保健福祉部と科学技術情報通信部は「AIケア技術全周期支援戦略」を共同で発表した。その中心にある考え方は明快だ。倒れてから救うのではなく、リスクを事前に見つける。
在宅の場面では、韓国はAIとモノのインターネット(IoT)を組み合わせた「スマートホーム」モデルを導入している。高齢者の健康状態や活動データを24時間見守り、異常を検知すればただちに対応につなげる。高齢者施設では「スマート施設」モデルを導入し、記録業務や夜間巡回などを支援する。戦略全体の軸は、今後3年で既存技術を現場に実装し、中長期的にはロボットなどのフィジカルAIの研究開発を進め、移動支援を含む身体的なケアへ広げることにある。
韓国の財閥グループの参入が、この流れを加速させている。
2026年5月、サムスン物産はソウル市江南区の高齢者向け住宅「The Signum House Gangnam」にAI高齢者ケアソリューションを正式に導入した。居室内のIoTセンサーが睡眠や心拍数などを自動で測定し、専用スマートフォンアプリを通じて、入居者一人ひとりに運動や食事の助言を提供する。
2026年8月には、サムスン物産がAI高齢者ケアプラットフォーム「EverRing」を正式に打ち出した。健康管理と生活管理を統合し、AIによって入居者ごとに個別化されたケアを支援する仕組みだ。同じ時期、NHN財団は韓国保健福祉部のAI製品迅速商業化プロジェクトに選ばれ、スマートホーム分野の主導機関となった。NHNは、高齢者とAIが双方向にやり取りできる対話型AIエンジンの開発も進める。
韓国のAIケアは、高級高齢者住宅だけで進んでいるわけではない。2026年7月、ソウル市は公共賃貸住宅に暮らす独居高齢者向けのAIケア事業を始めた。IoTセンサーやスマートウォッチが集める健康データに加え、電気・ガス・水道の使用量といった生活データを総合的に分析し、フレイルのリスクや緊急の兆候を早期に見つける。
韓国の老人長期療養保険給付費は、2024年時点で14兆7000億ウォンに達し、2020年から55%急増した。AIケアの戦略的な意味は、財政圧力が強まり続ける中で、技術によってコストを抑え、効率を高め、より多くの人にサービスを届けることにある。
中国:「政策と市場」の二輪駆動
中国の道筋は日韓とは異なる。ロボット優先でも、AIモニタリング優先でもない。政策と市場を同時に動かす二輪駆動である。
2026年初め、民政部など8部門は「養老サービス事業主体を育成し、シルバーエコノミーの発展を促進するための若干の措置」を共同で公布した。同文書では、ビッグデータ、AI、北斗衛星測位システムを高齢者の健康モニタリングや個別化サービスなどの場面で活用することを明記し、介護サービスロボット産業の発展を促している。
2026年1月、工業情報化部はさらに、介護サービスロボット、高齢者向けの靴や衣料、飲み込みやすい食品などの研究開発を強化する方針を打ち出した。国務院が承認した「消費拡大第15次5カ年計画」は、シルバー関連製品・サービスの認証制度の構築を模索し、介護サービス分野のデジタル化・スマート化を進めるとしている。
政策の後押しを受け、市場も拡大を加速させている。2025年の中国スマート介護市場は約7兆2100億元で、2026年には7兆8500億元に達すると見込まれる。介護サービスロボット分野の伸びはさらに速く、2026年の市場規模は100億元を超え、年平均成長率は約32%に達すると予測されている。用途別では高齢者施設が最大市場で約50%を占め、地域介護が約30%、在宅介護が約20%で続く。なかでも在宅介護の伸びが最も目立つ。
中国のスマート介護は、「技術の展示」から「現場での実装」へ移りつつある。業界の共通認識を借りれば、その中心にあるのは「テクノロジーで支え、温かさを核にする」という考え方だ。技術で安全性と利便性の問題を解決し、きめ細かなサービスによって尊厳と感情面のニーズに応える。
注目すべきは、中国のシルバーエコノミーの規模を考えると、一つのモデルだけでは対応できないという点だ。大都市では「高級スマート高齢者向け住宅」の模索が進む一方、地方都市や農村部では「普及型スマート介護」がより強く求められている。コストを抑え、操作を簡単にし、広い範囲に届ける仕組みである。こうした層ごとに異なる需要が、多様な技術路線を生み出している。
三つの道筋には、それぞれの論理があり、それぞれの難題がある。
日本のロボット介護は、コストと倫理という二つの試練に直面している。1台500万円のロボットは、本当に必要とするすべての高齢者施設に届くのか。ロボットが高齢者の日常生活にますます深く入り込むとき、人と機械の境界はどこに置かれるのか。
韓国のAIモニタリングは、「早く気づく」という課題を解決しつつある。しかし「すぐに対応する」段階では、なお人手に頼らざるを得ない。では、その後のケアを誰が担うのか。高齢者の感情面のニーズに誰が応えるのか。
中国のスマート介護市場は最大規模だが、地域間の発展格差は極めて大きい。大都市の「スマート高齢者向け住宅」と農村部の「スマート介護の空白」との間には、巨大なデジタルデバイドが横たわっている。
三つの道筋は、一つの問いに行き着く。高齢化が加速するアジアで、テクノロジーは老いることをより尊厳のあるものにできるのか。答えは、おそらく一つのモデルの中にはない。三つのモデルが互いに学び合い、融合していく先にある。



