2023年、タイの観光業はまるで「ジェットコースター」のような激しい変動を経験しました。この年、中国などの出入国政策の変化と、タイ国内の安全問題が重なり、中国人観光客の間でタイ旅行市場は大きな浮き沈みを見せました。年末が近づくにつれ、タイの観光業関係者は今年の成果と課題を振り返り、将来の発展の道を模索し始めています。

中国人観光客の回帰:回復の兆し
かつて中国人観光客に最も人気のある海外旅行先の一つだったタイは、パンデミック期間中に深刻な打撃を受けました。2022年には外国人観光客数が1115万人にまで激減し、中国はもはや最大の観光客源ではなくなりました。しかし2023年初頭、中国が段階的に防疫政策を緩和し、団体旅行を再開したことで、タイは最初にリスト入りした国の一つとなりました。1月9日、中国からの第一便がスワンナプーム空港に到着した際、タイ政府は副首相が自ら歓迎の辞を述べるなど、中国人観光客に対して高い敬意を示しました。
この対応は、タイの観光業にとって大きな励みとなりました。データによると、2023年1月には中国人観光客によるホテル予約数が前年同月比で480%増加し、春節期間中、タイは中国人の海外旅行先として最も人気のある目的地となりました。タイの観光業者はこの回復の勢いに大きな期待を寄せ、中国人観光客の回帰が市場全体の回復を牽引すると見ていました。
物価高騰と安全不安:回復の道に障害
しかし、その回復の兆しは長くは続きませんでした。中国人観光客の急増により、タイの観光市場では需要と供給のバランスが崩れ、価格が急騰しました。航空券、ビザ、ホテルの料金が軒並み倍増し、多くの観光客が「昔のタイとは違う」と嘆く事態に。さらに、3月末には政情不安、中国人留学生の殺害事件、SNS上での「タイ旅行は危険」といった噂が広まり、中国人観光客はタイ旅行の安全性に対する懸念を抱くようになりました。4月には中国人観光客のタイ訪問者数が前月比で13%以上減少し、タイの観光業者も「予想を下回った」と述べました。
それでもタイの観光業は努力を続けました。「労働節」の連休や夏休みの観光シーズンにおいては、価格引き下げや航空路線の増便などで観光客を呼び戻そうとし、市場は若干の回復を見せました。しかし、9月に中国国内で公開された犯罪題材の映画『彼女が消えた』『孤注一擲』が再び東南アジア旅行への安全不安を引き起こし、タイの観光業は再び困難に直面しました。
ビザ免除政策と銃撃事件:希望と挫折の交錯
状況の打開を図るべく、タイ政府は9月に中国などの国々の観光客に対して5ヶ月間のビザ免除政策を発表し、航空会社にも増便を促しました。この政策発表後、タイに関する検索数は800%急増し、国慶節の連休期間中には中国人観光客数が前月比で72.49%増加しました。タイのセーター首相はバンコクに到着した第一便の中国人観光客を自ら出迎え、タイの歓迎の意を強調しました。
しかし、10月3日にバンコク市内で発生した銃撃事件は、再びタイの観光業に大きな打撃を与えました。この事件で中国人観光客が犠牲となり、セーター首相は公式に哀悼の意を表するとともに、「不可抗力の事件」であることを強調し、タイは今後も中国人観光客を歓迎し続けると述べました。それでもこの事件は、中国人観光客の安全に対する懸念を一層高める結果となり、タイ観光マーケティング協会のギディ会長も「事件がなければ観光客数はさらに多かった」と語っています。
打開への道:転換と安全対策の強化
このような課題に直面しながらも、タイ政府および観光業界は打開策を積極的に模索しています。一方で、安全対策の強化に取り組み、デマの打ち消しや個人への公共の場での銃所持許可の一時停止、国家安全部門との連携による観光客の安全確保などを進めています。もう一方では、低価格の団体旅行から高品質な観光への転換を図り、若者や小規模な旅行グループ向けに、より深みのある旅行商品を提供し始めています。
さらに、ビザ制度の一層の緩和や、一部の国からの観光客に対するビザなし滞在期間の延長、各種文化・スポーツイベントの開催、ナイトライフの延長営業など、多様な体験を提供する施策も計画されています。タイ国政府観光庁のタペニー・チャイペン局長は、タイ政府が安全面を重視しており、観光産業のアップグレードとイノベーション推進に継続的に取り組む方針を示しました。
2023年、タイの観光業は回復と課題が入り混じるなかで波乱の一年を過ごしました。将来も不確実性は残るものの、タイ政府と観光業界の努力は市場に新たな希望を与えています。今後、タイの観光業が持続可能な発展を遂げられるかどうかは、さまざまな要因の相互作用にかかっています。