アジア経済新構図|香港経済の回復と対外貿易の急伸

(萬戈・東京報道)

香港・中環のクイーンズロード・セントラル。あるオフィスビルの36階では、新たに設けられるファミリーオフィスの内装工事が進んでいる。デザイナーは図面を手に壁面の曲線を確認し、プロジェクトマネージャーは電話で家具の搬入時期を確認している。

こうした光景は、いま香港各地のオフィスビルで同時に見られるようになっている。

2026年第1四半期、香港のGDPは前年同期比5.9%増となり、この約5年で最も力強い四半期成長を記録した。香港を訪れた旅行者は1430万人を超え、前年同期比17%増。香港株式市場のIPO規模は昨年、再び世界首位に返り咲いた。貨物輸出総額も実質ベースで前年同期比23.8%増となった。

数字の背後には、二つの動きがある。世界の「資金」が香港へ流れ込み、中国の「製品」が世界へ出ていく、という流れである。

ファミリーオフィス急増の背景

ファミリーオフィスの急増は、香港経済の回復を最も分かりやすく示す兆しだ。

2025年末時点で、香港のシングルファミリーオフィスは3380社を超えた。2年間で約680社増え、伸び率は25%を上回る。こうしたファミリーオフィスは、香港で1万人を超えるフルタイムの専門人材を直接雇用しており、運営費だけでも香港経済に年間約126億香港ドルの経済効果をもたらしている。

香港金融発展局の理事である盧彩雲氏は、証券先物委員会のデータを基に、香港で運用される資産総額が昨年20%増の42兆2000億香港ドルに達したと指摘した。ファミリーオフィスの増加規模について、同氏は「長年この業界に身を置いてきたが、見たことがない水準だ」と述べている。デロイトの調査によれば、香港に拠点を置くファミリーオフィスの背景は、地域、業種、資産規模のいずれにおいても多様で、調査対象となった業界関係者の多くは、香港の方がシンガポールより魅力的だとみている。

今年5月、BCG(ボストン・コンサルティング・グループ)が発表した「2026年グローバル・ウェルス・レポート」は、世界の金融界に注目すべき変化を示した。香港が初めてスイスを上回り、世界最大のクロスボーダー資産管理センターとなったのである。2025年の香港のクロスボーダー資産は2兆9500億ドルに達し、スイスの2兆9400億ドルを上回った。2024年から2025年にかけて、香港のクロスボーダー資産は2840億ドル増え、伸び率は10.7%だった。一方、同期間のスイスの増加額は2070億ドル、伸び率は7.6%にとどまった。

香港特別行政区政府も取り組みを強めている。財経事務・庫務局と投資推進署は、2026年から2028年末までに、少なくとも220社のファミリーオフィスの香港進出または事業拡大を支援する目標を掲げている。今年1月から4月までに、すでに36社が香港に拠点を設けるか事業を拡大し、さらに約160社が香港での展開を積極的に検討しているという。

資金の流れも、この傾向を裏付けている。UBSが発表した「2026年グローバル・ファミリーオフィス・レポート」によれば、地政学的緊張や政府債務の増加を背景に、多くのファミリーオフィスがドル建て投資の縮小を検討し、アジア太平洋、大中華圏、西欧への投資を拡大しようとしている。年初に中東で戦火が広がり、世界的なエネルギー危機が深まるなか、世界の資産と富が東へ移る流れも加速している。

「二つのルート」が「新・新三様」の海外展開を開く

香港が「資金」の集まる場所だとすれば、中国の対外貿易は「製品」の送り出し口である。

2026年上半期、中国の貨物貿易の輸出入総額は25兆4700億元となり、同時期として初めて25兆元を突破した。前年同期比では16.9%増である。輸出は14兆7300億元、前年同期比13.4%増となり、11四半期連続で増加を維持した。輸出品目の構成も大きく変わりつつある。「新三様」と呼ばれる電気自動車、リチウム電池、太陽電池が引き続き先頭を走る一方で、より注目されるのは「新・新三様」の台頭だ。ロボット、AI、革新的医薬品はいずれも、輸出の伸びに力強さを見せている。

「新三様」と「新・新三様」の海外展開を、香港は具体的かつ実務的に支えている。

資金調達の面では、2026年7月8日、フィジカルAI企業のMomentaが香港証券取引所に上場し、約68億香港ドルを調達した。同社はフィジカルAI関連銘柄として初の上場案件となり、時価総額は700億香港ドルを突破した。翌7月9日には、珞石機械人が香港証券取引所に上場し、幅広いスマートロボット製品を手掛ける企業として香港株式市場で初の上場銘柄となった。立訊精密は242億6600万香港ドルを調達し、2026年の香港株式市場で最大のIPO記録を打ち立てた。瀾起科技も70億4300万香港ドルを調達し、AI半導体の研究開発に充てる。2026年の香港IPO市場は、「インターネット消費企業の上場先」から「オフショアのハードテック企業と産業金融を支える市場」へと変わりつつある、との分析もある。「新・新三様」を支える企業が、香港でグローバル資本の後押しを受けているのである。

展示の面でも、香港は中国の新エネルギー車が国際市場へ向けて発信するショーケースになっている。6月18日、2026年国際自動車・サプライチェーン博覧会(香港)で、中国一汽の紅旗ブランドは右ハンドル仕様の新型電気自動車3車種を披露し、紅旗E-HS9の右ハンドル版を香港で正式に発売すると発表した。価格は99万8000香港ドルである。中国一汽は2026年を「紅旗ブランド右ハンドル元年」と位置づけた。同社の陳彬副総経理は、香港の金融、人材、市場面での強みを生かし、東南アジアおよび世界市場を開拓していく考えを示している。

資金調達から展示まで、香港は「新・新三様」の海外展開を支える「二つのルート」になりつつある。資金は香港から入り、製品は香港から世界へ向かう。

「資金」と「製品」の循環

香港の「資金」と中国本土の「製品」は、いま一つの循環を形づくっている。

世界の資本は香港を通じて中国へ入り、中国の製品は香港を通じて世界へ向かう。ファミリーオフィスの急増は、より多くの国際資本が香港を中国資産への投資拠点として選んでいることを意味する。対外貿易における「新三様」の海外展開は、より多くの中国製造が世界市場で存在感を高めていることを示している。

2026年第1四半期、香港のGDPは5.9%成長した。同じ四半期、中国のGDP成長率は4.6%だった。二つの経済圏は、一方が資金を呼び込み、もう一方が製品を送り出すことで、アジア経済で最も活発な成長拠点をともに形成している。

香港の回復は孤立した現象ではない。その背後には、中国製造の高度化がもたらす貿易の増加があり、世界の資本が東へ移ることで生まれる富の増加がある。「資金」と「製品」が同じ方向へ流れているのなら、その方向そのものに目を向ける価値がある。

【短評】

香港の回復は世界が歓迎する動き

萬戈

2024年2月、モルガン・スタンレー・アジア元会長のスティーブン・ローチ氏は、「香港は終わった」とする趣旨の文章を発表した。だが1年後、同氏は見方を改めた。香港は予想されたような大きな打撃を受けるどころか、米中対立のなかで「新たな活力を取り戻した」というのである。

香港を見誤ったのはローチ氏が初めてではない。1995年、米誌『フォーチュン』は表紙で「香港の死」を予言したが、2007年には「死ぬことはなかった」と論調を改めた。歴史は繰り返している。香港を悲観的に語った人々は、最後には現実によって覆されてきた。

数字は雄弁だ。3380社のファミリーオフィス、42兆2000億香港ドルの運用資産、2兆9500億ドルのクロスボーダー資産、5.9%の四半期成長。世界で最も目の肥えた資本が、行動で答えを示している。

香港は香港の人々だけの香港ではない。中国だけの香港でもない。香港は、世界の香港でもある。

香港は、誰かが語ったような「過去の遺物」になったわけではない。ただ、再び活気を取り戻したのだ。それは多くの人が望んでいたことである。

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