日本の家電、「撤退」ではなく「路線転換」
(元音・東京発)
2026年4月21日、日本の家電量販大手ノジマは、日立製作所と合意に達し、日立の白物家電事業を承継する新会社の株式80.1%を約1,100億円で取得すると発表した。日立側は19.9%を保有する。取引完了後、日立家電事業を承継する新会社はノジマ側の傘下に入り、事業の経営主導権もノジマ側へ移る。取引は2027年3月期中に完了する見通しだ。
白物家電はかつて日立の「顔」ともいえるブランドだった。2008年の巨額赤字を経て日立が社会インフラ分野へ軸足を移してからも、この事業はなかなか売却されずにきた。2026年3月末時点で、日立グローバルライフソリューションズ(日立GLS)は約6,100人の従業員を抱え、日立発祥の地である茨城県日立市に工場を構えている。
注目すべきは、ノジマが取得するのが単純な「国内の白物家電工場」ではないという点だ。取引の構造には、日立GLSがまずトルコのアルチェリクとの合弁による海外家電会社AHHAの残り60%の株式を買い戻し、その後、国内外の家電事業を新会社に統合するという手順が含まれている。つまりこれは、日立の家電事業をグローバルに再編したうえで、ノジマが経営権を握るという取引であり、その産業的な意味は「日立が白物家電を売った」という理解にとどまらない。
10年余りに及ぶ再編の道のり
ノジマの導入を決める前、日立はある試みを行っていた。
2023年、日立は「指定価格制度」を導入した。洗濯機や冷蔵庫など一部製品の最終小売価格をメーカーが設定し、売れ残り商品の返品などの仕組みを通じて小売側の在庫リスクを軽減するという制度だ。その核心は、製品の価格や販売方法に対するメーカーの管理を再び強化し、価格と利益の管理を改善することにあった。
指定価格制度は、日立が家電事業の収益構造を改善しようとした方向性をある程度反映するものだった。しかし、市場競争や流通構造、グループとしての資源配分が変化し続けるなかで、日立は最終的にノジマを支配株主として迎え入れる道を選んだ。
日立は最初ではないし、最後でもないだろう。
シャープ、パナソニック、ソニー、東芝――かつて世界のテレビ産業を主導した日本を代表するブランドは、いま、所有構造と経営モデルの深い再編を経験している。
三洋電機(2012年):白物家電事業をハイアールに売却
シャープ(2016年):鴻海が66%の株式を35億ドルで取得
東芝(2016年):白物家電事業の80.1%の株式を美的集団(Midea)に売却
東芝(2017年):テレビ事業の95%の株式を海信(Hisense)に売却
ソニー(2026年3月):TCLと最終契約を締結し、家庭娯楽事業を合弁会社BRAVIA Inc.へ移管。TCLが51%、ソニーが49%を出資し、2027年4月の稼働開始を予定
パナソニック(2026年4月以降):米国と欧州の一部テレビ事業の販売・マーケティング・物流を創維(Skyworth)に委ねるが、テレビ事業そのものから撤退したわけではない
日立(2026年4月):白物家電事業の経営権がノジマへ移る……
これらの事業再編は、すべてが同じ理由で起きたわけではない。経営危機や財務的な圧力のもとで行われたものもあれば、成熟した企業が自ら資本を再配分した結果であるものもある。しかし共通する結果として、日本の大手電機メーカーは、利益率の低い民生用電子機器の製造への依存を徐々に減らしてきた。東芝は電力設備・エネルギーや産業インフラへ、パナソニックはEV用電池、空調(HVAC)、サプライチェーン向けソフトウエアなどの分野へ軸足を移し、ソニーはゲーム、音楽、映像などのエンターテインメントコンテンツとイメージセンサー事業に経営資源を集中させている。
なぜダイキンは残ったのか
撤退の声が相次ぐなかで、ダイキンは例外的な存在だ。
パナソニックや東芝、日立といった総合電機メーカーとは異なり、ダイキンは長年にわたり、空調とその関連の中核技術を最も重要な事業の軸に据えてきた。他の日系ブランドが家電分野で「何でも手がける」なかで、ダイキンは空調という一つの領域を掘り下げ続けてきたのである。
徹底した現地化も、もう一つの重要な要素である。ダイキンは中国で、研究開発から生産、販売、サービスまでを網羅する体制を構築し、長江デルタや珠江デルタに生産拠点網を密に展開してきた。研究開発から販売に至るまで、ダイキンは中国市場で完結した現地化の運営体制を実現している。他の日系ブランドが価格競争で後退を重ねるなか、ダイキンは高価格帯市場を深耕することで、安定したブランドプレミアムを維持してきた。
ダイキンの事例が少なくとも示しているのは、日本の総合電機メーカーが軒並み従来型の民生用電子機器事業を縮小させるなかでも、中核技術と専門領域を長期的な事業の軸に据え、グローバル展開を続ける企業であれば、なお強い競争力を維持し得るということだ。
シェアの変遷
ダイキンの逆風下での成長は、日系家電全体のシェア変化を覆い隠すものではない。
2026年第1四半期、出荷台数ベースで見ると、中国のテレビ市場における上位8ブランドはすべて中国ブランドで、その合計出荷シェアは約95%に達した。一方、サムスン、ソニー、フィリップス、シャープといった外資系ブランドの合計シェアは3%に満たない。市場調査会社カウンターポイント・リサーチのデータによれば、2025年末時点でソニーの世界テレビ出荷シェアは約2%だった。冷蔵庫、洗濯機、エアコン――かつて日系ブランドが大きなシェアを占めていた品目でも、いまや中国ブランドが圧倒的な主力となっている。
しかし、日本の家電メーカーのシェア変化は、一度の戦いに敗れた結果ではない。十数年にわたって続いてきた、段階的な調整の結果である。
繁栄は過ぎ去った。東京の浜松町や芝浦一帯には、かつて東芝をはじめとする大手電機メーカーの本社や事業拠点が長らく集積していた。2025年夏、東芝は浜松町本社の機能を段階的に川崎へ移転し、8月1日付で本店所在地の登記を正式に変更した。かつてこの地に「芝浦事業所」を構えていたシャープは、早くも2016年に台湾資本の傘下に入っている。
アイリスオーヤマは興味深い反例だ。2025年度のグループ売上高は7,949億円に上るが、その品目は特殊で、収納用品や生活雑貨、LED照明が中心であり、従来型の「家電の巨人」ではない。その存在は、まさにこう物語っている。ある時代を定義した「大ブランド」が次々と退場していく一方で、残るのは、もともとその時代の中心にいなかった者たちなのだ、と。
サプライチェーンは「誰に売られたのか」
日立の家電事業売却で最も注目すべきなのは、「売った」という事実そのものではなく、「誰に売ったか」である。
ノジマは従来型の意味でのメーカーではなく、日本の家電量販店であり、2026年3月期のグループ売上高は9,828億400万円に上る。産業構造の観点から見ると、これによりノジマは初めて、小売と製造をより深く同じ資本体系に組み込むことになり、製造・小売一体化の色彩を帯びる。ノジマと日立の双方は、今回の提携の戦略的な狙いが、小売現場の顧客ニーズと日立の開発・製造力を結びつけ、販売現場のフィードバックから製品開発へとつながる循環をつくることにあると、公式に明言している。
これまで家電産業では、メーカーが製品開発と供給を主導し、量販店などの販路を通じて販売するのが一般的だった。今回、ノジマが日立家電の新会社の経営権を取得したことは、日本の家電小売業者が資本を通じて製造の領域により深く関与し始めたことを示している。こうした製造と小売の垂直統合は、日本の家電産業の構造変化における新たな方向性の一つになる可能性がある。
同時に、日本の家電量販業界自体も激しい再編の渦中にある。2026年6月4日、日本の大手家電量販店ヤマダホールディングスとエディオンは、共同持株会社方式による経営統合について基本合意したと発表した。これもまた、国内市場の成熟と価格競争の激化を背景に、店舗拡大と価格競争に依存する従来型の量販モデルがより大きな圧力に直面していることを映し出している。
日本国内市場が長期的な低インフレ、少子高齢化、需要縮小の影響を受けているなかで、単純にシェアを奪い合うだけではもはや問題を解決できない。日本の家電産業は、「メーカー主導」や「流通主導」といった旧来のモデルから、ブランド、技術、製造能力、小売チャネルが新たに組み合わさる構造へと移行しつつある。
この二つの出来事は、少なくとも同じ方向を指し示している。日本の家電産業では、製造、ブランド、小売チャネルをめぐる新たな資本・事業再編が進行しているのだ。
ブランドが消えることではなく、人々が忘れ去った時に、一つの時代が終わったといえるだろう。
【短評】
より理性的な撤退
日立の家電事業売却は、一つの孤立した出来事ではなく、一つの時代のを象徴する出来事である。かつてアジアの家庭のリビングを定義した日本ブランド――東芝、日立、パナソニック、ソニー、シャープ――は、いま所有構造と経営モデルの深い再編を経験している。
三洋はハイアールに、東芝は美的集団と海信に、シャープは鴻海に売却され、ソニーはTCLと合弁会社を設立してTCLが経営権を握り、パナソニックは一部市場のテレビ販売事業を創維に委ねた。こうした事業再編の理由はそれぞれ異なり、経営危機のもとで行われたものもあれば、能動的な資本の再配分によるものもある。
しかし、より深いところで変化が起きている。日立の家電事業を引き継いだのは同業のメーカーではなく、日本の小売業者自身だったのだ。今回、小売業者が経営権を握って家電事業の新会社を引き継いだことは、小売の側が資本を通じて製造の領域により深く関与し始めていることを示している。日本の家電はもはや「誰が作るか」だけの問題ではなくなり、ブランド、製造、流通の関係もまた組み直されつつある。
日本の家電産業は、「総合電機メーカーが自ら開発し、自ら製造し、量販店を通じて販売する」という垂直構造から、ブランド、技術、製造能力、小売チャネルが新たに組み合わさる構造へと移行しつつある。
そしてこれこそが、「レーンの切り替え」の真の意味なのである。



