年6月18日、香港アジアワールド・エキスポで「2026国際自動車・サプライチェーン博覧会(香港)」が開幕した。多くの新エネルギー車メーカーが右ハンドルモデルを集中的に展示し、アジアの右ハンドル市場が世界の自動車産業における新たな注目分野となっていることを示した。中でも、中国を代表する自動車ブランド「紅旗(ホンチー)」は複数の右ハンドルEVを発表し、フラッグシップEVであるSUV E-HS9右ハンドル版が香港で発売されると発表した。

長らく東南アジア市場は日系メーカーの牙城であった。しかし、NEVの急速な普及に伴い、その勢力図は塗り替えられつつある。今年開催された第47回バンコク国際モーターショーでは、中国ブランドの予約台数が初めて日系ブランドを上回るという象徴的な事態が起きた。
この動きの背後には、アジア自動車市場で進行中の劇的な構造変化がある。
かつての「安価な中国車」というイメージから、「先進技術・高品質な中国車」への転換が進む中、紅旗は香港を戦略的な「テストマーケット」と位置付け、アジアの右ハンドル市場への本格的な布石を打った。
右ハンドルという新たな舞台――製品投入から戦略的展開へ
今回の香港モーターショーで紅旗は、紅旗初のグローバル市場向けモデル Global SUV、紅旗 EHS5(高性能ピュアEV SUV)、そして紅旗 E-HS9(最高級フラッグシップEV SUV)という3つの右ハンドルモデルを一挙に公開した。ファミリー層からビジネス層まで、多様なニーズに応えるラインナップだ。
業界の視点から見れば、右ハンドルモデルの投入は単なる製品ラインナップの調整ではない。世界の自動車市場の約3分の1が右ハンドルであり、東南アジア、オセアニア、南アジア、一部の欧州地域が含まれている。これらの市場に参入するには、車両設計の変更だけでなく、法規制への適合、サプライチェーン構築、アフターサービス体制、現地運営能力などが求められる。
そのため、右ハンドル製品の投入は、自動車メーカーの国際化能力を示す重要な指標と見なされている。
今回発表されたE-HS9は、紅旗が海外右ハンドル市場に向けて投入するフラッグシップモデルだ。全長5.2m超の大型EVで、120kWhバッテリーとデュアルモーター四駆を搭載し、航続距離、室内空間、走行性能の面で世界の高級EV市場をターゲットとしている。
注目すべきは、新エネルギー車産業の急速な発展に伴い、中国ブランドが従来の価格競争から、技術革新・製品品質・ブランド価値の総合競争へとシフトしている点だ。設計理念、スマート技術、ユーザー体験などで差別化を図り、国際市場により多様な選択肢を提供している。
会場では同時に、E-HS9「一帯一路」プロトタイプ車両も展示され、注目を集めた。今年4月、このモデルは北京を出発し、35日間で1万km以上を走行、複数の国・地域を経由して香港に到着した。この長距離テストは車両性能の検証であると同時に、新エネルギー車メーカーが地域を越えた市場運営能力を模索していることの表れでもある。

香港という“テストマーケット”――輸出からエコシステム構築へ
3種の右ハンドルモデルが紅旗の製品力を示すものなら、香港展開はそのグローバル戦略を示していると言える。
紅旗の香港での布石は、単なる自動車販売の枠を超えている。製品の輸出にとどまらず、サービスやインフラを含めた「システムとしての輸出」を狙う包括的なプロジェクトだ。
7月1日、香港島の太古(タイクー)に「紅旗体験センター」がオープンする。ここでは「紅旗CARE 365」という独自のサービス網を展開し、販売から試乗、納車、アフターサービスまでの一貫したカスタマーエクスペリエンスを提供する。この施設は、グローバル展開における重要拠点としての役割も担っている。
さらに注目すべきは、バッテリー交換ステーション網の整備を急いでいる点だ。土地に制約がある香港のような都市部において、わずか99秒で完了するバッテリー交換方式は、充電待ちやスペースの問題を解決する最適解となるだろう。
産業の視点から見れば、バッテリー交換ステーションの展開は、中国の自動車メーカーの海外進出モデルが変化していることを示している。かつては完成車輸出が中心だったが、現在は充電・交換インフラ、デジタルサービス・プラットフォーム、運営システムの輸出へとシフトしている企業が多く、完全な産業エコシステムの構築を目指している。
中国第一汽車集団有限公司副総経理 陳彬(ちん ひん)氏は、「香港に根挿し、香港でサービスを提供し、成果を上げることは、中央企業としての責任であり、国家戦略への貢献である」と述べた。紅旗は香港を単なる販売市場ではなく、ブランド運営やサービス基準を磨き上げる「テストマーケット」と捉え、ここで確立したビジネスモデルを東南アジアや世界の右ハンドル市場へ横展開する構えだ。
製品供給、サービス体験、エネルギーインフラ、ビジネスモデル——紅旗の香港戦略は「車を売る」段階から「エコシステムを構築する」段階へと進化している。これは中国ブランドが「海外進出」から「現地定着」へ移行するための必須経路である。
アジア戦略――香港から世界の右ハンドル市場へ
香港は紅旗の右ハンドル戦略の出発点に過ぎない。
わずか1カ月前に、E-HS9右ハンドル仕様がシンガポールで正式発売された。販売価格は約50万シンガポールドル。『The Straits Times』は、「E-HS9は走るステータスシンボルであり、その堂々たる存在感と豪華さは、さらに高価な欧州ブランド車が及ばないものだ」と評価した。
今後3年間で、紅旗は香港を拠点として6車種以上の新エネルギー車を右ハンドル市場へ投入する計画である。タイ、インドネシア、マレーシアなど東南アジア市場との連携展開も進んでいる。2026年は紅旗の海外事業における「飛躍の年」と位置付けられ、高級ブランドの確立、グローバルチャネルの掘り下げ、現地化の徹底、パートナーとの協業の4つを柱に、ブランドを「海外進出」から「現地定着」へと深化させる。
注目すべきは、中国ブランドが「コストパフォーマンス」から「ハイテク・高品質」へのグローバルシフトが進む中で、紅旗が独自の高級路線を歩んでいる点だ。低価格戦略ではなく「東洋のラグジュアリー」を価値軸とし、世界のラグジュアリー市場に正面から挑んでいる。今回の展示では、金葵花シリーズ——L5国礼丹霞ハイエンドカスタム版、国雅黒金カラーバージョンなど、価格100万元(約2,000万円)クラスのカスタムモデルも公開された。
この「フラッグシップ先行・ブランドアップ」戦略は、レクサスがLS400で北米市場を開拓し、ヒョンデがジェネシスで高級ブランドを構築した道筋と共通する。金葵花シリーズは、西洋ブランド中心の高級車市場に対し、東洋ラグジュアリー美学という独自の文化的価値を提示する試みといえる。
アジア右ハンドル市場――EV産業の新たな成長極
香港での取り組みは始まりに過ぎない。アジアの右ハンドル市場全体は、大きな成長の余地を見せ始めた。
近年、シンガポール、タイ、マレーシア、インドネシアなどでEV普及政策が加速している。政府支援、インフラ整備、消費者意識の向上が市場成長を後押ししている。
特にシンガポールは、製品品質、技術力、ブランド価値に対する要求が高く、多くのメーカーにとって右ハンドル市場進出の重要なテスト市場となっている。
EV市場の成熟に伴い、競争のポイントも価格からブランド力、技術革新、アフターサービス、現地運営能力へと移りつつある。
世界の自動車産業にとって、右ハンドル市場は新たな販売機会であると同時に、国際化能力への新たな試練でもある。今回の香港モーターショーから、多くの企業が製品・サービス・エネルギー補給・デジタル運営を一体としたエコシステム構築を進めていることが見て取れる。EVのグローバル競争は新たな段階に入っている——単なる製品販売からシステムソリューションの提供へ、市場参入から長期的運営へと移行しているのだ。
香港からシンガポール、バンコク、ジャカルタへ――アジアの右ハンドル市場は、世界のEV産業における最も活力ある成長地域の一つとなりつつある。今回の香港モーターショーが示したのは、新型車の発表だけではない。そこには、自動車産業が世界規模で進めている大きな変革の姿が映し出されている。企業は異なる市場へ適応し、より包括的な製品・サービス体系を構築しながら、グローバル競争へ参入しているのである。これこそが、アジア右ハンドル市場への注目が高まる理由であり、紅旗が香港を“テストマーケット”として選んだ根本的な理由でもある。




