アジア経済の新たな構図|陣痛:インドを襲うAIの衝撃と日本産業の苦境

Killy(東京)

ベンガルール。マンヤタ・テックパークへ向かうアスファルト道路の脇で、マサラチャイを売る屋台の店主ラジェシュは、手持ち無沙汰にカップを拭いていた。

例年のこの時期なら、首から青い社員証を下げた若いプログラマーたちが群れをなして彼の屋台を取り囲み、あたりには「新プロジェクト」「ストックオプション」「シリコンバレー出張」をめぐる高揚した会話が飛び交っていた。だが今年、その青い社員証は姿を消した。テックパークの高層ビルを覆うガラスの外壁は、いまもまぶしい光を反射している。だが建物の中は静まり返り、外のチャイ屋台も閑散としている。

アジア経済の繁栄は、均等に広がっているわけではない。インドではAIの波が、同国が誇ってきたITアウトソーシング産業を直撃している。日本では、産業の苦境がなお深まっている。

かつてアジア経済の「模範生」とされた二つの国は、それぞれの厳しい局面を迎えている。

インド:AIが「IT技術者」の仕事を奪う

7月1日、インドのテクノロジー産業を象徴するNifty IT指数は、約5年ぶりの安値まで下落した。ITアウトソーシング大手4社の時価総額は、わずか半年で半減した。

数字の背後には、生身の人間がいる。3月31日、ベンガルール。32歳のソフトウエアエンジニア、バヌチャンドラ・レディ氏が自宅マンションで首をつって亡くなった。その後まもなく、IBMに勤めていた妻も17階から飛び降りた。レディ氏は以前、米国で働き、年収は約800万ルピー(約1200万円相当)だった。AI導入に伴う雇用の変化で米国での仕事を失い、その後1年近く、安定した高収入の職に就くことができなかった。

これは一つの例外ではない。インド最大のITサービス企業タタ・コンサルタンシー・サービシズ(TCS)は2025年、同社史上最大規模の人員削減計画を発表した。2026年3月までに1万2000人を削減する計画である。2025~2026年度の最初の9カ月だけで、TCS単体の従業員数は純減で2万5816人に達した。大手企業は「古参」社員を急速に削減し、新人に対しては門戸をほぼ閉ざしている。最初の9カ月間で、インドのIT大手5社が純増させた新規従業員は合計わずか17人だった。前年同期の1万7764人とは対照的である。

インドでは毎年、コンピューター関連専攻の卒業生150万人超が雇用市場に流入する。しかし現在、アクティブなテック系求人は28カ月ぶりの低水準に落ち込み、実務経験2年以内を対象とする技術職の求人は前年同期比で44%急減した。入門レベルの職のほぼ半分が、突然消えたことになる。ある機関は、2026年にインドのテクノロジー業界で1万8000~2万1000人分の職が削減される可能性があると試算している。

この危機は、表面的にはAIによる人手の代替である。しかし本質的には、インドIT産業が30年にわたり蓄積してきた構造的矛盾が一気に噴き出したものだ。かつてアウトソーシング産業の繁栄は、安価な人材を利用する人件費の裁定の上に成り立っていた。優秀な技術人材は海外へ流出し続け、シリコンバレーの巨大企業のCEOにはインド系が多いにもかかわらず、インド本土では中核的な競争力を持つテクノロジー製品企業が育たなかった。産業が計算能力とモデルを中核とするAIの新段階に入ると、インドの基盤インフラの弱さが急速に浮き彫りになった。国内のGPU総数はわずか3万8000個で、米国の大手テック企業1社の10分の1にも満たない。

外資は行動で答えを示している。今年に入ってから、世界の投資家はインド株式市場から約230億ドルを引き揚げた。これは昨年通年の総額を上回る。外資の保有比率は14.7%まで低下し、14年ぶりの低水準となった。MSCI新興国市場指数におけるインドの比率は約19%から約12%へ下がった。インドのNifty50指数は8%超下落し、時価総額では韓国に抜かれた。

インドのITアウトソーシング産業は、あとどれほど持ちこたえられるのか。あるインドの起業家は率直にこう語る。「インドのITサービス産業は、2030年までに現在の形では消滅するだろう」

日本:技術で後れ、産業は空洞化し、経済は力を失う

インドがAIに足元をすくわれたのだとすれば、日本は自ら一歩ずつ後れを取ってきたと言える。

中国国家発展改革委員会国際合作センターの毛克疾・副研究員は、日本の構造的衰退を四つの「連鎖する落とし穴」として整理している。インターネット、新エネルギー、AIなど世界の主流分野を相次いで逃した技術面での後れ、自動車など基幹産業が圧迫される産業の空洞化、債務膨張、円安、インフレ加速に表れる経済の弱さ、そして米国主導の構造に取り込まれ、盲目的な反中姿勢によって自ら退路を断つ地政学的苦境である。

日本の相対的な衰退を最もはっきり示す特徴は、世界の技術の主流から急速に離れつつあることだ。かつて日本は、精密製造、先端材料、産業用ロボットなどの強みを生かし、AI、ドローン、ヒューマノイドロボットなどの分野で一定の地位を占めると期待されていた。だが、その期待はほぼ完全に外れた。AIとデジタル経済の時代には、先行優位がもたらすネットワーク効果はほとんど乗り越えがたい。「一歩遅れれば、次の一歩も遅れる」のである。

自動車産業は、日本の数世代にわたる繁栄を支えた「エンジン」だった。だが今、そのエンジンは徐々に止まりつつある。日本が長く賭けてきた水素燃料電池技術は、理論上は完璧でも、世界的な産業の潮流からはますます遠ざかっている。その結果、日本の自動車メーカーは、中国と米国の電気自動車が勢いよく伸びていくのを見守るしかなくなっている。日本の主要自動車メーカー7社の2026年度合計純利益は、過去最高だった2023年度から48%急減し、ほぼ半減する見通しだ。ホンダは上場から約70年で初の赤字となり、日産は2年連続で巨額赤字に陥った。今年上半期、トヨタの中国販売台数は前年同期比17.1%減、日産は15.0%減、ホンダは34.7%の大幅減となった。

半導体産業の衰退は、教科書的な事例と言ってよい。1988年、日本の世界市場シェアは50%に達していたが、2024年には7.1%まで低下した。日本政府が期待をかけるRapidusの2ナノ国産半導体計画には、すでに約1兆円の補助金が約束されている。しかし試作から量産へ移るには、なお数兆円規模の資金不足が残る。

経済面の圧力も深刻である。円相場は一時、1ドル=162円台まで下落し、約40年ぶりの安値をつけた。日本政府の総債務はGDP比で204%を超え、先進国の中で最も高い水準にある。2026年上半期、負債額1000万円以上の日本企業の倒産は5346件に達し、12年ぶりに5000件を突破した。前年同期比では7%増え、5年連続の増加となった。このうち、円安を原因とする倒産は45件に達し、前年同期比32.3%増と、統計開始以来の最高を記録した。

日本とインドの利害は2026年に重なった

2026年7月初め、高市早苗首相がインドを訪問し、両国は一つの合意に達した。今後数年以内に、日本がインドの高度技能人材500人をAI分野で受け入れるというものだ。

高市氏はこれまで、移民管理の強化を中核的な主張としてきた。就任後も実際に引き締めを進めている。ところが同じ7月、インドを訪問した際には、数百人規模のAI人材の受け入れを自ら提案した。

この計画は日本国内で議論を呼んだ。高市氏は就任後、移民政策を一貫して引き締めてきたにもかかわらず、今度はインドのAI人材を受け入れる姿勢を示したため、政策矛盾ではないかとの疑問が出たのである。だが表面的には政策の衝突に見えても、実際には一種のバランスを取る対応と理解できる。一般移民には厳しく対応し、国内の移民不安に応える。一方で、高度技術人材には門戸を開き、産業界の声に応える。500人という規模は大きすぎず、小さすぎもしない。国内向けには、数百人規模であれば社会構造に大きな影響を与えにくい。企業にとっては、数百人でも研究開発の不足をいくらか補うことができる。

もちろん、日印の結びつきは人材だけではない。両国は120件を超える協定に署名した。数百人規模の人材計画に加え、多言語対応の業界特化型AIモデルの開発、サイバーセキュリティ協力の強化、データセンターと半導体分野のリスク共同評価も含まれる。これらは単なる人材受け入れではなく、日印AI協力の枠組みを築く動きに近い。

両国が連携を深める姿は、さらに深い現実を示している。AI時代には、単独で戦う旧来のモデルが機能しなくなりつつあるということだ。

【短評】

連携することで、生き残る道が見える

日本とインドの利害がこのタイミングで重なったことは、より深い現実を映し出している。AI時代には、単独で戦う旧来のモデルが機能しなくなりつつある。

インドと日本。かつて世界の資本から注目を集めた二つのアジア経済は、それぞれの陣痛を経験している。インドの教訓は、安価な人材を利用したアウトソーシングモデルが、AI時代にはあまりにも脆いということにある。日本の教訓はさらに重い。技術の後れと産業の空洞化が悪循環をつくると、経済大国であっても時代の波の中で急速に滑り落ちていく。

アジアの繁栄は、決して当然のものではない。おそらく、粘り強く旺盛な生命力を持つ経済圏とは、常に進化を続ける経済圏なのだ。

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