AI・アジア・工場|AIは人を代替するのではない、むしろより多くの人手を必要とする

(萬戈・東京)
序文|「AI投資ブームがアジアの製造業拡大を促し、半導体需要が景気を下支えする重要な役割を担う」――世界各国では今、アジアのAI産業をおおむねこのように捉えている。本連載では、この見方を起点に、AIブームの実像を多角的に掘り下げる。

現在、AIをめぐる報道は、アルゴリズムの進歩や計算能力をめぐる競争、地政学的な駆け引きに集中しがちだ。一方で、AIを支える「人」と「工場」に目を向けた報道は少ない。本連載ではその空白を埋めるため、AIブームを「クラウド」から「生産ライン」へと引き戻して考える。

AIは人を代替するのではない、むしろより多くの人手を必要とする

考えたことがあるだろうか。スマートフォンのアプリが質問に答えているその瞬間、クラウド上を流れているのは、ほんの数行のコードだけなのか。

いや、そうではない。動いているのは、数万平方メートルの施設に並ぶ数千、数万台ものサーバーだ。工場では作業員が3交代制で働き、砂からウエハーをつくり、ウエハーを半導体チップに加工し、そのチップをサーバーに組み込んでいる。データセンターの外では、変電所と冷却塔が電力供給と冷却を担う。

AIの「知能」はクラウド上にある。だが、その「身体」は生産ラインにある。AIはアルゴリズムだと思われがちだが、実際には巨大な製造業でもある。

ここに、砂からサーバーまでをつなぐ工程を並べてみよう。読み進めれば、AIの背後でどれほど多くの工場が動いているかが見えてくる。

マレーシア・ペナン:半導体封止・検査工場の「3交代制」

ペナンにある半導体封止・検査工場のクリーンルームでは、作業員が3交代制で働き、設備は24時間稼働している。生産ラインでは、HBM(広帯域メモリー)の封止工程が一分一秒を争うように進む。チップ1個の納入が遅れるだけでも、AIデータセンターの稼働開始時期に影響しかねない。

マレーシアは世界の半導体サプライチェーンで約8分の1のシェアを占め、関連企業の多くがペナンに集まる。「東洋のシリコンバレー」と呼ばれるこの地域は、いま「東洋のシリコンバレー2.0」へと移行しつつある。世界のサプライチェーンを支える「受託生産者」から、製品や回路を生み出す「設計者」への転換だ。ペナン州では現在、集積回路(IC)設計企業45社が事業を展開している。

需要はどれほど強いのか。マレーシア半導体産業協会によると、旺盛なAI需要を受け、一部のメモリー製品では生産能力がすでに埋まり、新規注文は2028年、さらには2029年まで積み上がっている。現地企業UWCの受注額は、2024年の1億5,000万リンギット未満から、2025年には1億8,000万リンギットへ急増した。2026年半ばには2億5,000万リンギットに達する見通しだ。同社は製造工程の一部を現地サプライヤーに委託し、周辺国にも事業を広げている。

グローバル企業も進出を加速させている。インテルは2025年12月、ペナンとクリムの封止・検査拠点を拡張するため、8億6,000万リンギット(約2億800万ドル)の追加投資を表明した。マレーシアを同社の世界的な封止・検査事業の中核拠点にする計画だ。2026年1月には、低消費電力AIソリューションを手がけるSyntiantが、ペナンで製造・研究開発拠点を稼働させた。面積は約22万平方フィートで、生産能力を年間約16億個へと倍増させ、800人分の高度技術職を創出する。2月には、台湾のディスプレードライバーIC封止・検査大手Chipbond Technology(頎邦科技)がペナンで新工場の開所式を行った。投資額は約2億ドル。6月にはシンガポールのGalatek Technologiesが、同社初の製造・組み立て・出荷拠点をペナンに設置し、今後5年間で現地投資を1億ドルまで拡大する計画を示した。中国の半導体封止・検査企業、甬矽電子も、21億人民元を上限にマレーシア拠点を建設する方針を発表している。

ペナンの夜は、クリーンルームの明かりに照らされ、眠ることがない。ここから出荷されるチップの一つ一つが、世界のどこかでAIサーバーの演算中枢に組み込まれていく。

韓国・器興:半導体工場の「軍拡競争」

韓国・京畿道にあるサムスン電子の器興(キフン)事業所では、新たなDRAM工場の建設が計画されている。その隣では、既存ラインの露光装置がナノメートル単位の精度で回路を形成する。1枚のウエハーには、AIチップの「頭脳」となる膨大な数の回路が刻み込まれている。

韓国経済新聞が2026年7月15日に業界関係者の話として報じたところによると、サムスン電子は器興事業所にDRAM工場を新設する計画だ。月産能力はウエハー約10万枚、投資額は数十兆ウォンに上り、早ければ2026年第3四半期にも着工する。当初、この用地には研究開発センターが計画されていた。だがサムスンは、AI向け計算基盤の拡大で増え続けるメモリー需要に対応するため、土地利用計画を変更し、大規模なDRAM生産ラインの建設へと舵を切った。

器興は、サムスンの巨大な生産網の一角にすぎない。同社は龍仁(ヨンイン)半導体クラスターに半導体工場6棟を建設し、次世代の先端プロセスとHBMの中核生産拠点とする計画だ。7月12日には、龍仁の第1工場の稼働開始を当初計画より1~2年前倒しし、2029年とする方針を発表した。サムスンは平沢(ピョンテク)と龍仁の2大クラスターに計2,030兆ウォンを投じる一方、光州(クァンジュ)にも半導体工場2棟を新設し、400兆ウォンを追加投資する計画だ。

サムスンのファウンドリー事業では、中長期の受注残が50兆ウォン近くに達している。

SKハイニックスも投資を積み増している。2026年7月、同社は忠清北道・清州(チョンジュ)で新たな生産能力を整備するため、100兆ウォンを投じる大規模な増産計画を明らかにした。韓国銀行は7月13日付の書面回答で、「半導体市場は現在も拡大が続いている。AIインフラ投資の急増によって半導体需要が伸び続ける一方、供給能力の拡大が需要の伸びに追い付いていないことが主因だ」と指摘した。

韓国の夜も、半導体工場のクリーンルームから明かりが消えることはない。50兆ウォン規模の受注残が、サムスンの生産ラインで処理されるのを待っている。そこから送り出されるウエハーの一枚一枚が、AIの計算能力をめぐる競争の行方を左右する。

成都:サーバー組み立てラインの「加速」

成都にあるAIサーバーの組み立て工場では、生産ライン上でロボットアームと作業員が交互に工程を担う。GPUサーバーが次々と組み上がり、梱包されてトラックに積まれ、その日のうちに中国各地のAIコンピューティングセンターへ向かう。

計算資源関連産業の急拡大とAIサーバー需要の増加を追い風に、成都市郫都区にある企業では、第1四半期の受注が大幅に増え、生産ラインが昼夜を問わず稼働している。成都は中国で初めて「計算資源利用券(算力券)」の仕組みを導入し、すでに2,000万人民元超を発行した。2026年以降は毎年1億人民元以上を発行し、計算資源の利用料を最大60%補助する。

華夏鯤鵬は2022年、ファーウェイの西部フルフィルメントセンター事業を落札した。現在までに、組み立て・最終検査ライン10本を整備し、ファーウェイのサーバー、ストレージ、スイッチなどを生産している。華鯤振宇は地元企業にサプライチェーンを開放し、ストレージ、IC、高速ケーブルなどの分野で10社余りと協業に向けた合意を結んでいる。

成都の夜、サーバー組み立てラインの作業員たちは時間と競っている。サーバー1台の納入が遅れれば、それだけでAIモデルの学習期間が延びる可能性があるからだ。

【短評】

激しさを増すAI産業競争

ペナンの封止工場にあるクリーンルーム、韓国・器興の半導体工場、成都のサーバー組み立てライン。三つのタイムゾーン、三つの職種が、同じリズムで動いている。生産を急ぎ、生産能力を増強し、また生産を急ぐ。

野村証券は2026年7月初めに公表した半導体産業の詳細なリポートで、半導体サイクルはまだピークにはほど遠く、2026年後半には「歴史的規模」の需給ミスマッチが生じる可能性があると警告した。TSMCのCoWoS生産能力は、2025年末の月産約7万枚から2026年末には同12万枚へ拡大する見通しだが、それでも40万枚、20%超の供給不足が残る。HBMの受注は、すでに2027年まで積み上がっている。

AIの「知能」はクラウド上にある。だが、その「身体」は生産ラインにある。午後10時、多くの人が眠りにつくころも、アジア各地の生産ラインでは人と機械が動き続けている。これは一つの工場で起きた一時的な残業ではない。数年にわたり、複数の国をまたいで続く産業競争である。生産ラインこそ、AI時代の最も現実的な戦場なのだ。

【次回予告】
「午後10時、AI半導体の生産ラインはなおフル稼働」。次回はマレーシア・ペナンの封止工場、韓国・器興のウエハー工場、成都のサーバー組み立てラインを訪ねる。午後10時を過ぎても、なぜ生産ラインの明かりは消えないのか。その現場を追う。

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