中央アジアのホットスポットは、どこまで熱いのか
文|Kelly
2026年10月、トルクメニスタンのアワザ。キルギスのジャパロフ大統領は、第8回中央アジア諸国・アゼルバイジャン首脳協議で、中央アジアとアゼルバイジャンを結ぶ電子取引プラットフォームの構築を提案した。物流、倉庫、通関、貨物追跡を一体で整備する構想だ。
首脳級会合で具体的な技術構想が議題になったことは、中央アジア各国が域内の結び付きをどう強めるかを本格的に議論し始めたことを示している。
同じ方向を示す動きは、この1年で相次いだ。2025年、中国と中央アジア5カ国の貿易額は1000億ドルを突破し、初めて中国が中央アジア各国にとって最大の貿易相手国となった。ウズベキスタン国家投資基金はロンドンで上場し、カザフスタンの鉄道輸出貨物量は2026年1~9月に6940万トンに達した。
中央アジアが活況を呈しているのは確かだ。では、何が動き、熱気はどこまで広がっているのか。分野ごとに見ていく必要がある。
投資資金は短期案件から長期拠点へ
現在の投資熱を最も分かりやすく映すのがウズベキスタンだ。2026年5月1日時点で、外資が参加する企業は1万9500社と前年同期比21.8%増えた。うち62.9%が首都タシケントに集中する。国別では中国が5615社で首位となり、ロシア、トルコ、カザフスタンが続いた。
タシケントで農業テクノロジー事業を手掛ける中国系スタートアップの責任者は、現地の変化をこう語る。
2024年の視察時に提携先から最も多く聞かれたのは「何を持って来られるのか」だった。しかし、2026年の協議では「現地に研究開発拠点を設ける意思はあるか」に変わったという。質問が変わったということは、市場が変わったということだ。
資本市場では、さらに明確な進展があった。ウズベキスタン国家投資基金は2026年5月、ロンドンとタシケントに上場し、6億400万ドルを調達した。評価額は19億5000万ドルで、ブラックストーンやフランクリン・テンプルトンなどが中心となって参加した。ウズベキスタン企業として初のグローバル株式発行であり、2026年のロンドン市場では初の大型IPOとなった。
ウズベキスタンが2026年1~7月に受け入れた外国投資と融資は329億ドルに上る。エネルギーとインフラが依然として中心だが、フィンテック、農業テクノロジー、デジタルインフラの比重は高まっている。アブダビで開かれたアラブ首長国連邦(UAE)とウズベキスタンの投資交流会でも、デジタルインフラ、人工知能(AI)、通信が重点分野に挙げられた。
中央アジアに向かう資金は、単発の商取引から、地域に根を張る拠点づくりへと性格を変えつつある。
鉄道輸送からQR決済へ 暮らしを結ぶ回廊
中央アジアの物流回廊の活況はから表れている。カザフスタンの2026年1~9月の鉄道輸出貨物量は6940万トンと前年同期比で7.1%増えた。このうち鉄鉱石は32.1%増の1010万トン、穀物は17.6%増の830万トンで、主な輸出先は中央アジアの周辺国、アフガニスタン、中国だった。2025年通年の通過貨物量は20%増の3300万トンに達した。
より興味深い変化は、鉄道以外の場所でも起きている。ウズベキスタンの国家決済システムHUMOとカザフスタン国家決済会社は2026年9月、両国の国家QRコードを相互利用できるようにする覚書を締結した。ウズベキスタン国民はカザフスタンでUzQRを利用でき、カザフスタン国民もウズベキスタンで自国のQRコードを使って支払える。中央アジア諸国の小売決済インフラが相互接続されるのは初めてだ。
タシケントで雑貨を扱う中国人事業者によると、以前はウズベキスタンの顧客がカザフスタンへ仕入れに行くたびに、両替や手数料、決済待ちが必要だった。今ではQRコードを読み取って、数秒で支払いが終わるという。
カザフスタン中央銀行のジャレノフ副総裁は9月の中央アジア・フィンテックサミットで、中国を含む11カ国との間で越境決済網の構築を進めており、カザフスタンと中国を結ぶQRコード決済は2026年末までに先行して始まる見通しだと述べた。キルギスも5月、テンセントのTenPay Globalと協力覚書を結び、国内の電子ウォレットをWeChat Payの加盟店網に接続する取り組みを始めた。
大口貿易から日常の買い物へ、企業間取引から個人の決済へ。中央アジアの回廊は、貨物を運ぶ一本の線から、暮らしを結ぶネットワークへと変わり始めている。
首脳が議論し始めた共通ルール
インフラをつないだ後は、制度や運用のルールもそろえる必要がある。ジャパロフ大統領が提案した中央アジア・アゼルバイジャン統一電子商取引プラットフォームは、域内の制度面の連携を首脳レベルで進める構想だ。大統領は、電子商取引の発展には配送、倉庫、通関、貨物追跡を含む物流基盤が欠かせないとも強調した。キルギス政府は、ハイテクパークの専門人材を活用して構想を推進する方針を示している。
より身近な領域では、フィンテック投資が加速している。ウズベキスタンのAgrobankは610万ドル規模のベンチャーキャピタルファンド「AgroVentures」を設立した。農業テクノロジーとAIを中心に、60~75社のスタートアップへ1社当たり25万~50万ドルを投資する計画だ。
Agrobankの会長は「起業家にとって最初の大口顧客になりたい」と明快に語った。
重要なのは610万ドルという金額よりも、「最初の大口顧客」を目指す姿勢である。国内銀行がスタートアップの最初の主要顧客になろうとしている。成熟した企業が融資を求めて来るのを待つのではなく、新しい産業が育つ過程に自ら加わろうとしているのだ。
域外資本だけではない内発的な成長
見落とされがちな点がある。今回の中央アジアの活況は、域外から流入した資金だけで生まれたものではない。
2025年の中国と中央アジア5カ国の貿易額は1000億ドルを突破したが、域内貿易も拡大している。カザフスタンと中央アジア周辺国との貿易や、ウズベキスタンの域内向け輸出は、時期によって域外貿易を上回る伸びを示した。中央アジア各国の間で産業協力とサプライチェーンが形になり始めている。
さらに大きな変化は投資の形にある。初期の中国・中央アジア協力は、建設工事の請負と資源開発が中心だった。現在は投資、建設、運営を一体化した事業が増えている。Agrobankのベンチャーファンド、ウズベキスタン国家投資基金の上場、カザフスタンの越境決済接続に共通するのは、単なる通り道を整えようとしているだけでなく、経済活動を支える重要な結節点に機能を蓄積しようとしていることだ。
中央アジアの熱気はどこまで続くのか
海外資本が流入し、研究開発拠点や長期的な事業拠点を設け始めた。鉄道の外では、QRコードが市民の日常を結び始めた。首脳は共通の電子商取引基盤を議論し、国内銀行は自国のスタートアップに資金を投じている。
この熱気が長く続くかどうかは、中央アジアが自律的に資金と事業を循環させる経済圏を築けるかにかかっている。



