「地域に根ざし、中小企業を支援する」を旨とする信用金庫がある。なぜ中小企業はメガバンクではなく信用金庫を選ぶのか。信用金庫にはどのような特徴があるのか。城南信用金庫理事の卯月雄一郎氏に話を聞いた。
信用金庫;地域をより良くするのが使命
卯月理事はまず、信用金庫の基本理念を説明した。信用金庫は協同組織金融機関であり、利益追求だけを目的としているのではなく、「適切な利益を得て、それを地域に還元し、地域をより良く発展させること——地域を大切にすることが、信用金庫の使命です」
具体例として、「城南信用金庫の本店は東京・品川にあり、営業地域は東京と神奈川県の一部に限られています。」と語る。
信用金庫は、主に中小企業を取引先とする金融機関である。日本の企業体を富士山に例えるなら、山頂には大企業があるが、信用金庫が主に取引先としている中小企業は日本企業の99%を占め、その頂上を支えるための裾野である。これが裾野金融である。
信用金庫:中小企業の「かかりつけ医」
病院に例えるなら、信用金庫は「かかりつけ医」だという。ちょっとした風邪や咳の時に気軽に相談できる存在である。一方、重い病気等になった時に行く大病院とは役割が違う。
信用金庫は「顧客に寄り添う」姿勢を何よりも重視する。従来の金融機関のように結果を見て判断するのではなく、日頃から「どうすれば売上を上げられるか」「どう会社をもっと良く出来るか」を顧客と共に考え、改善に向けて共に努力する。良くなれば共に喜び、悪化すれば心から心配する、家族のような関係の構築に努めている。
信用金庫:中小企業の製品を「見える化」
今日開催されている“よい仕事おこし”フェアこそ、私たちの姿勢を体現するイベントです。私たちは中小企業が直面する課題を解決することが最大の使命です。中小企業が抱える大きな課題の一つは、製品がどれほど優れていても、なかなか知られないことだ。各地には、こだわりの素材を使った良品や高い技術を持った企業が数多くあるが、重要なのはそれらを「知ってもらい、出会う機会を創出する」ことである。この“よい仕事おこし”フェアには個別商談ブースが設けられ、特定のバイヤー(購買側)と出展企業(中小企業)との間で商談が行われる。本番前から予約は満杯となった。
この商談の場は、取引成立だけでなく、バイヤーから具体的な助言を得られる貴重な機会も提供する。中小企業は開発・製造能力はあっても、包装デザイン、製品形状、販売場所などの販売戦略についてプロの助言を得る機会に乏しい。中小企業にとって、「売れるかどうか」という結果以上に、消費者のニーズを理解するバイヤー目線からのフィードバックを得られることが、多くの中小企業にとって大きな気づきとなり、事業再建や発展のための重要な支えとなっている。
“よい仕事おこし”フェアは、手作りの温かさが感じられる。今回は全国254の信用金庫のうち、152金庫の顧客が集まった。地方企業にとっても、東京という巨大市場は非常に魅力的だ。出展料等がかかっても「この“よい仕事おこし”フェアに出たい」と参加する意思を示すこと自体が、信用金庫の地域と中小企業への支援の証なのである。
関連稿2:
「“よい仕事おこし”フェア(ビジネスマッチング)」の起源と目的の変化
卯月理事によりますと「“よい仕事おこし”フェア」(ビジネスマッチングイベント)は、2011年の東日本大震災の翌年、2012年に始まった。全国に254ある信用金庫は、日頃から協力しあっている。震災後、東北地方の信用金庫の顧客が甚大な被害を受けたことから、城南信用金庫の声かけにより全国の信用金庫が協力して被災地支援を目的にこのフェアを開催した。当初の目的は東北の復興支援だった。第1回は東京ドームで開催され、東北の信用金庫顧客の食品、特産品などを販売する「物産展」が主な形態だった。より多くの来場者を集め、「買うことで支援する」が趣旨だった。震災で工場が止まっている間に、取引先は他地域のサプライヤーに切り替えており、国の補助金で工場を再建しても、肝心の販路が失われていた。復興のためには、特定の企業と特定の企業をつなぎ、よい仕事を生み出す出会いの場が必要だった。第2回以降も、東北の特産品(日本酒、スイーツ、海産物など)の販売を中心としつつ、熊本地震、中国地方豪雨など、他の被災地への支援も組み込まれていった。そうした中、世界は新型コロナウイルスによるパンデミックに見舞われた。パンデミックの影響で、被害は特定地域ではなく、全国の信用金庫の中小企業顧客に広がった。こうして、「“よい仕事おこし”フェア」の目的は、全国の中小企業支援へと軸足を移した。具体的には、物販中心から、商談を核としたビジネスマッチングのプラットフォームへと重点を移した。それに伴い、4年前から開催場所を東京ビッグサイトに移し、現在に至っている。




