早稲田教師教育研究所 特聘研究員・王智新氏を訪問
2026年度の大学入学共通テストが1月17・18日の両日に実施された。今年は出願手続きの全面電子化という大きな転換点であっただけでなく、志願者の動向から、受験生の選択と雇用市場の深い連動性が浮き彫りとなった。統計によると、文系学部の志願者が増加する一方で理系が減少。その背景には、日本社会の構造的変化、景気サイクル、そして教育観の変容がうかがえる。

■文系人気が再燃、理系は「文高理低」の兆し
大手予備校・河合塾の集計によると、2026年度入試における文系科目の志願者数は前年比102%と微増した一方、理系科目は同98%と減少に転じた。詳細を見ると、国立大学では「法学・政治学」や「経済・経営・商学」の志願者が前年比101%を超え、私立大学の同系統学部では104%を超える伸びを記録している。
この傾向は、雇用市場の変化を直接反映したものと解釈されている。河合塾の近藤治首席研究員は、景気回復局面では、カリキュラムが柔軟で実験設備などの制約が少ない文系学部が受験生に選ばれやすくなると指摘。「経済や経営を学ぶことが、就職活動において有利に働くと考える受験生が増えている」と分析している。
また、文系出身者のキャリアパスが、公務員や法務だけでなく、デジタルマーケティングやデータ分析といった新領域へと多様化していることも要因の一つだ。今年の共通テストで導入された記述式問題やデータ分析問題が、「批判的思考(クリティカルシンキング)」や情報統合能力を重視している点も、文系的な「ソフトスキル」の評価と合致している。
■女子受験生の選択が多様化、脱・伝統的キャリア
かつて女子受験生に人気のあった「生活科学(家政学)」や「看護」などの志願者が大幅に減少し、それぞれ前年比93%、92%まで落ち込んだ。一方で、理系分野への女子の進出が顕著になっている。「化学」の志願率は前年比112%、「物理」は111%、「機械・航空」は107%と大きく伸びている。
この変化は、女子の職業選択が伝統的なジェンダーロール(性別役割分担)の枠組みを脱し、多様化していることを示している。都立高校に通うある女子生徒は、「国立大学の文系を目指しているが、将来は教育や研究の道に進みたい」と語り、自立したキャリア形成を目指す受験生の姿勢を象徴している。
■学費と物価高が志望校選びに直結
物価高騰と学費の上昇が、受験生の意思決定に影を落としている。2025年度の私立大学の平均学費は約96.8万円に達し、国立大学でも標準額を超える大学が相次いでいる。さらに、複数の大学が2026年度からの学費値上げを表明している。
生活コストの増大も深刻だ。2024年の大学生の月間平均支出は2015年比で約1万3,000円増加し、下宿生の支出は月額6万9,500円に達している。こうした経済的負担を考慮し、仕送りや住居費を抑えるために「自宅に近い学校」を選択する受験生が増えており、経済要因が志望校選びの決定的な判断材料となっている。
■出願の全面電子化と著作権ルールが新機軸に
2026年度共通テストでは、初めてオンライン出願が全面導入された。受験生自身が登録、検定料の支払い、受験票の印刷を行うシステムへの移行は、入試業務のデジタル化を象徴する出来事である。大学入試センターは、これにより効率性と透明性が高まり、将来的なデータ分析にも寄与するとしている。
また、試験内容のインターネットへの無断アップロードが厳しく禁止された。入試センターは2025年12月、試験問題の著作権がセンターにあることを強調する通知を出し、SNSなどでのシェアが権利侵害にあたる可能性を警告した。これは問題流出の防止と試験の公平性を維持するための措置である。
■雇用ニーズに応える試験設計へ
今年の共通テストは、内容面でも「能力重視」が鮮明になった。教科横断型の問題の増加、英語の「4技能(読む・聞く・話す・書く)」の総合評価の強化、データ分析問題の導入などが行われた。これらの変更は、職場で求められる批判的思考や課題解決能力と直結しており、教育と雇用の間の正の循環を目指すものとなっている。
共通テスト制度は進化を続けており、筆記試験だけでなく、面接や活動報告書など、より包括的な入学者選抜評価体系の構築を大学側に促している。テクノロジーの発展に伴い、将来的には個々の能力に応じた「アダプティブ・テスティング(適応型テスト)」や実践能力評価などが導入される可能性もあり、社会の実践的なニーズに即した人材評価システムへの発展が期待されている。




