香港の中央アジア戦略 金融の足場からルールの接続点へ

(九日・東京発)

9月10日、第11回「一帯一路」サミットが香港で閉幕した。2日間の日程には70を超える国・地域から政財界関係者6200人以上が参加。300件を超える投資案件が紹介され、800回を超える個別商談が行われた。60件以上の協力覚書・協定が結ばれ、案件と取引の総額は31億ドルを上回った。

今年の会合では初めて、中央アジアを取り上げる特別プログラムと専用エリアが設けられた。6月に香港政府の李家超行政長官がカザフスタンとウズベキスタンを訪問した成果を具体化する取り組みだ。

特別プログラムの新設は、香港と中央アジアの協力が個別案件の積み重ねから、制度に基づく連携へ移りつつあることを示す。

前稿「中央アジアの『金融覚醒』」が、中央アジア諸国による香港での債券発行と株式上場を取り上げたのに対し、本稿は香港が中央アジアとの協力をどのように制度化しているかを追う。前者が企業の動きなら、後者は市場基盤の整備である。

覚書に先行した7億7000万元の融資

会期中、制度に基づく連携を端的に示す案件が明らかになった。

英金融大手スタンダードチャータード銀行は、ウズベキスタン国有銀行アサカバンク、上海康恒環境と協力覚書を締結した。覚書に先立つ2026年8月には、アサカバンク向けに7億7000万元(約160億円)の人民元建てシンジケートローンを単独で組成し、3回に分けて実行していた。

実務が先に動き、その後に覚書が交わされた。この順序は、会場での握手が協力の出発点ではなく、すでに進む協力を確認する場だったことを物語る。

スタンダードチャータード香港のメアリー・フエン最高経営責任者(CEO、グレーターチャイナ・北アジアCEO兼務)は「中央アジアでは戦略的な連携が徐々に具体的な商機へ変わっている」と述べた。

香港政府の「一帯一路」担当、ニコラス・ホー氏によると、香港はカザフスタンの政府系機関2社による総額72億元の点心債発行を支援した。ホー氏は、香港独自の機能と「スーパー付加価値提供者」としての役割を示す具体例だと説明する。

スタンダードチャータードとアサカバンクの覚書は、資金管理、外国為替・リスク管理、融資、債券市場、ESG助言などを対象とする。シンジケートローンは第一歩にすぎず、今後は越境金融サービス全般を制度として接続する。

香港取引所とAIFCがルールを接続

スタンダードチャータードの案件が事業面での具体化なら、香港取引所と中央アジアの金融機関による協力は、ルール面での具体化といえる。

香港取引所は2026年6月、アスタナ国際金融センター(AIFC)管理局とアスタナ国際取引所(AIX)にそれぞれ協力覚書を交わした。

AIFC管理局との覚書は、気候変動対応、脱炭素、グリーンファイナンス、コモディティー取引、初期段階の鉱山開発向け融資を対象とする。AIXとの覚書では、株式の重複上場(プライマリー上場とセカンダリー上場を含む)と債券の越境上場を促進し、定期協議の枠組みを設ける。

香港取引所のボニー・チャンCEOは「覚書は世界の発行体と投資家に新たな機会を開く」と述べた。

AIFCは英国のコモンローを採用し、外資100%出資を認め、為替規制を設けていない。香港取引所とAIFCの連携は、コモンローを基盤とする二つの金融拠点が互いのルールを接続する試みであり、単なる資金の通り道より一段深い。

ウズベキスタンがデジタル協力を提案

制度の接続は金融にとどまらない。

ウズベキスタンのアリポフ首相は会合で「ウズベキスタン・香港デジタル協力プラットフォーム」の創設を提案し、香港の金融機関にタシケント国際金融センターの整備への参加を呼びかけた。

提案には前段となる取り組みがある。李家超行政長官が6月にウズベキスタンを訪問した際、現地のIT Parkは香港サイバーポート、香港サイエンスパーク、香港・深圳イノベーション・テクノロジーパークの3拠点と覚書を締結した。スタートアップの育成、人材交流、共同研究開発を進め、香港と中央アジアを結ぶイノベーション回廊を築く。

ウズベキスタンのIT Parkには、ソフトウエア開発、AI、デジタル貿易などの企業とスタートアップが1000社以上集まる。李氏は、香港企業が同国の若いIT人材を生かし、ソフトウエア開発や技術革新で協力できると述べた。

アリポフ首相の提案は、覚書で始まった回廊を常設の枠組みへ発展させる次の一歩となる。

ASEANが香港のRCEP参加を支持

会合は中央アジアとの協力以外にも重要なメッセージを発した。

東南アジア諸国連合(ASEAN)のカオ・キムホン事務総長は、香港による地域的な包括的経済連携(RCEP)協定への参加をASEANが支持しており、「香港の参加はすべての関係者に利益をもたらす」と明言した。一方、承認手続きは続いており、加盟国の合意形成には時間がかかるとも指摘した。

香港は「一帯一路」サミットを土台に、中央アジア、ASEAN、中東との地域協力網を同時に広げている。中央アジアへは西、ASEANへは南へと関係を伸ばし、「スーパーコネクター」としての役割を一本の通路から多方向のプラットフォームへ高めようとしている。

金融の足場からルールの接続点へ

一連の動きを重ね合わせると、香港と中央アジアの協力関係が新たな段階に入ったことが分かる。

第一段階は金融の足場づくりだった。中央アジア諸国は香港で点心債を発行し、IPOを申請し、国際資本に接続した。

第二段階はルールの接続である。香港取引所とAIFC・AIXの覚書、ウズベキスタンのデジタル協力構想、スタンダードチャータードによる融資から覚書へと続く制度的連携は、香港が中央アジア資本の行き先だけでなく、中央アジアと国際市場のルールを結ぶ接点になりつつあることを示す。

第三段階も始まっている。香港とカザフスタン最大都市アルマトイを結ぶ直行便が2027年1月9日に就航し、香港政府はカザフスタンへの経済貿易事務所の設置も計画する。ユーラシア経済協力機構の葛剣輪番議長は「制度化を示す動きであり、両地域の長期的で安定した意思疎通と協力の仕組みづくりにつながる」とみる。

債券発行から株式上場へ、覚書から直行便へ、経済貿易事務所からルールの相互接続へ。香港と中央アジアを結ぶ回廊は一歩ずつ形になっている。37億元の債券と7億7000万元のシンジケートローンはすでに実現した事業であり、香港取引所とAIFCの覚書、ウズベキスタンのデジタル協力構想、アルマトイ直行便、経済貿易事務所は、今まさに築かれている制度インフラである。

香港の「中央アジア特別プログラム」は、会議日程の一項目にとどまらない。香港から西へ伸びるルールのネットワークが、ようやく編まれ始めた。

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