中央アジア資金の「決済ハブ」――香港か、海南か
(孟琳娜・カザフスタン)
中央アジアと中国の経済・貿易関係は緊密さを増している。2025年の中国・キルギス間の貿易額は272億ドルと前年比20%増加し、中国―キルギス―ウズベキスタン鉄道も全線で工事が本格化した。二国間の貿易はなお拡大を続けている。では、資金決済のハブをどこに置くべきか。今こそ、その損得を真剣に見極める時だ。
中央アジア資金の「決済ハブ」――香港か、海南か
2026年5月、香港の李家超(ジョン・リー)行政長官は代表団を率いてカザフスタンとウズベキスタンを訪問し、香港銀行公会の代表も同行した。
ほぼ同じ時期、海南自由貿易港の企業誘致チームは、ウルムチで開かれた中国・ユーラシア博覧会で、中央アジア企業に向けて越境資金移動に関する政策を紹介した。
中国で最も対外開放が進む二つの地域が、ほぼ同時に中央アジアへ手を差し伸べた格好だ。
中央アジアで貿易やインフラ建設、鉱山開発に携わる中国企業にとって、現実的な問いが浮上している。資金決済のハブを置くなら、香港と海南のどちらがよいのか。
香港の切り札:世界のオフショア人民元センター
香港の強み:「代替の利かない機能」
世界のオフショア人民元決済の約83%は香港を経由している。2026年初め、香港金融管理局(HKMA)は人民元業務ファシリティーの総枠を1,000億元から2,000億元へ倍増させた。参加銀行は40行に増え、業務は11カ国に広がっている。香港取引所は、CIPS(人民元国際決済システム)への直接参加に向けた準備を進めている。実現すれば、人民元取引の決済で中継銀行を介する必要がなくなり、コスト削減と所要時間の短縮につながる。
中央アジア企業にとって、香港の魅力は利便性にある。香港銀行公会の孫煜会長は、「香港には整備された人民元金融インフラ、流動性が最も潤沢なオフショア市場、さらに預金、債券、ファンド、デリバティブ、決済までを網羅する総合的な商品・サービス基盤がある」と強調する。
2026年5月、中国銀行(香港)はカザフスタンの政府系機関と初の戦略協力覚書を締結した。対象は人民元業務、資本市場、融資、カストディなどで、同行とカザフスタンの金融協力にとって画期的な一歩となった。同月には、カザフスタン国営石油・ガス会社による初のオフショア人民元建て債券の発行も支援し、香港金融管理局の債務証券中央決済システム(CMU)を通じて決済した。香港銀行公会の陳文・会長代行はさらに、中央アジア各国の通貨と人民元を香港で直接交換し、受け渡し・決済を行う仕組みを検討できるとの考えを示した。
カザフスタンのアスタナ国際金融センター(AIFC)は香港と同じくコモンローを採用しており、制度面で連携しやすい。AIFCのレナト・ベクトゥロフ総裁は最近のインタビューで、カザフスタンは中国企業が西方へ海外展開する際の玄関口だと語った。中国中信銀行はグローバルなサービス網を生かし、カザフスタンのアルティン銀行と連携して、中央アジア向けのワンストップ型越境金融サービスを打ち出した。越境決済、専用融資、為替リスクのヘッジ、マイナー通貨対応など六つの機能を統合している。
香港は「世界的な金融ハブ」として、国際的な資本配分、国境を越えた決済、法的仲裁を担う。香港を選ぶことは、世界の金融ネットワークに一気に接続することを意味する。
海南の切り札:全島封関後の政策メリット
海南の強み:「制度の革新性」
海南自由貿易港は2025年12月、島全体を一つの特別税関区域として運用する「全島封関運用」を開始した。政策の柱は「ゼロ関税・低税率」と、越境資金移動の自由化・円滑化だ。開始から半年で、EF口座(多機能自由貿易口座)の取引総額は6,000億元を突破し、資金取引は世界105カ国・地域に及んだ。現在、海南省内では13行がEF口座サービスを提供し、開設口座数は累計1,200を超えている。
企業にとっての海南の直接的なメリットは、三つの数字に表れている。
第一はスピードだ。EF口座なら手続きをすべてオンラインで完結でき、越境決済に要する時間は従来の1~2営業日から2~3時間へ短縮され、一部の取引は数分で完了する。越境エネルギー取引を手がけるある企業の事例が、その効果を端的に示す。輸出入の頻度が高く迅速な処理を求められる同社では、EF口座の開設後、手続き時間が1~2営業日から2~3時間へ短縮された。
第二は利便性だ。自由貿易港内の企業が海外との間で経常取引に伴う資金を受け払いする場合、送金・受取指示だけで手続きを完了できる。証券投資を除き、資本取引に該当する海外向け融資や海外からの借り入れなども、限度額や事前届け出といった制約を受けない。穀物・食用油企業の澳斯卡糧油有限公司(オスカ糧油株式会社)は、いち早く制度を利用した企業の一つだ。全島封関運用が始まった2025年12月18日、同社は自由貿易港で初となるEF口座を使った「第二線」越えの異名義振替を実施した。「第二線」とは海南自由貿易港と中国本土との境界を指す。これにより、「一つの口座、多様な用途、無限の可能性」を掲げる新たな越境決済モデルが実現した。同社は「島外での販売代金を直接入金でき、支払いもインターネットバンキングで操作できるため、資金効率が大幅に向上した」としている。
第三はコストだ。奨励産業に該当する企業の法人税率は15%で、高度人材や不足人材の個人所得税も実質負担率の上限が15%に設定されている。
中央アジア企業にとって、海南にはもう一つ独自の価値がある。「海への出口」だ。カザフスタンのSCAT航空は、中国初となる「第7の自由(第7航権)」を活用した旅客便として、三亜―プラハ線を開設した。内陸国が多い中央アジアは、海南に南シナ海や東南アジアへつながる新たな「海の玄関口」を見いだしつつある。
海南は、国内循環と国際循環が交わる「双循環の結節点」と位置付けられ、実体経済の支援と貿易コストの引き下げに重点を置く。
どちらを選ぶべきか。答えは事業内容で決まる
人民元建て決済が中心なら、香港が当然の第一候補となる。オフショア人民元決済で約83%のシェアを持つことは、流動性、効率、コストの優位性に直結する。海南が短期間で築ける強みではない。
佳鑫国際資源の選択は示唆に富む。カザフスタンでタングステン鉱山を開発する同社は2025年8月、香港証券取引所とアスタナ国際取引所(AIX)への同時上場を果たした。香港とカザフスタンで同時上場した世界初の案件であり、中央アジア初の人民元建て株式でもある。資金需要の大きい資源企業にとって、香港の資本市場の厚みと人民元の流動性は、代え難い魅力を持つ。
税負担を抑え、中国本土市場との距離を縮めたい企業には、海南の方が魅力的だ。法人税率15%や、加工による付加価値が一定水準に達した製品を中国本土へ持ち込む際の関税を免除する制度は、貿易・加工企業にとって実質的な恩恵となる。中国の車載電池大手、寧徳時代新能源科技(CATL)はすでに動き出している。2026年7月、同社の越境資金集中管理センターが海口総合保税区に設置され、EF口座を通じて越境資金を効率的に集約し、柔軟に配分できるようになった。世界的な電池大手が海南をグローバルな資金運営の中核拠点に選んだこと自体、一つのシグナルといえる。
複数通貨を扱う事業なら、香港が適している。為替管理規制がなく、通貨を自由に交換できることは、国際決済の基本条件だからだ。
事業規模がそれほど大きくなく、対中貿易が中心であれば、海南のEF口座で十分に対応でき、コストも抑えられる。
香港と海南は、必ずしも二者択一の競争関係にあるわけではない。「香港で受注・決済し、海南で加工・生産する」方式を採る企業もある。香港を国際業務の決済センターとし、生産ラインは海南に置いて、ゼロ関税と低税率の恩恵を受ける。これが最適解となる可能性もある。
中央アジア市場に対し、香港が提供するのは金融のルートであり、海南が提供するのは物流と政策のルートだ。二つのルートには、それぞれ異なる役割がある。
結局のところ、資金の行き先は、その資金を何に使い、最終的にどこへ届けたいかで決まるのだ。



