日本のAI戦略が加速:ロボット大手、NVIDIAと「フィジカルAI」へ 製造業の強みが新たな主戦場に
【東京・萬戈】
人工知能(AI)分野は近年、「大規模モデルの軍拡競争」と同義のように語られることが多い。だがこの1週間、日本は綿密に計画された一連の動きによって、従来とは異なり、自国の強みにより合った新たな領域へ踏み出す姿勢を示した。それが「フィジカルAI(Physical AI)」である。
7月16日、富士通はファナック(FANUC)、安川電機、川崎重工業のロボット大手3社と、米エヌビディア(NVIDIA)との間で、事業協力に向けた検討を始めると発表した。狙いは、デジタル空間と物理世界をつなぎ、「ソブリンAI」の考え方を取り入れた協調制御プラットフォームを構築することにある。製造、物流、医療などの現場でAIの社会実装を進める構想だ。
役割分担では、富士通はファナックと製造業、安川電機と小売・流通、川崎重工業とヘルスケア分野に重点を置く。富士通は9月末までに自社工場で同プラットフォームによる産業用ロボットの制御効果を検証し、年内にロボットメーカー向けに提供する計画だ。NVIDIAのジェンスン・フアン最高経営責任者(CEO)は、「次の産業革命もまた、日本から生まれる」と述べている。
これは一企業の単発的な動きではなく、政府の政策と呼応した動きでもある。日本の経済産業省は今年3月、半導体・デジタル産業戦略の改定に向けた重点分野として「フィジカルAI」を明確に位置づけた。今夏にも正式に取りまとめられる見通しで、政策面で初めて「ロボット+AI」が国家レベルの優先課題として掲げられることになる。

これに先立ち、日本政府は「AI・半導体産業基盤強化枠組み」に基づき、2030年度までに10兆円を超える公的資金を投じる方針を示している。これによって今後10年間で官民合わせて50兆円規模の投資を呼び込み、約160兆円の経済波及効果を生み出すことを目指す。今年4月には、経産省が北海道、秋田、宮城、栃木、茨城など9道県を「GX戦略地域」におけるデータセンター集積の候補地として選定した。最終的な認定は今夏に公表される見込みで、AI向け計算需要が急拡大するなか、インフラ面での受け皿づくりも進めている。
海外資本も日本への関与を強めている。ソフトバンクグループは7月1日、OpenAIへの追加出資として第2弾となる100億ドルの払い込みを完了した。OpenAIも「日本サイバーセキュリティ行動計画」を打ち出し、まず金融分野で最新モデルの安全性関連機能を提供するなど、日本市場への継続的な投資姿勢を示している。
長らく、日本のAIをめぐる議論では「出遅れ」が強調されがちだった。製造業の分厚い蓄積を持ちながら、世界的な潮流を主導する新たな成長ストーリーには乏しく、米国の大規模モデル企業の華々しい存在感と比べると、やや影が薄いとみられてきたためだ。
しかし、この1週間に相次いだ動きは、日本が自らの強みを生かし、弱点を避ける戦略へとかじを切りつつあることを示している。シリコンバレーと汎用大規模モデルの計算能力やパラメータ規模で正面から競うのではなく、世界的に評価されてきた精密製造とロボット産業の蓄積を土台に、工場、物流、医療といった現場でAIの価値を検証しようとしているのである。
業界関係者は、AIの産業化において最も不足しているのは、十分な活用の場だと指摘する。その点こそ、日本の製造業が最も得意としてきた領域でもある。ロボット大手とNVIDIAの連携、経産省による国家レベルの政策支援、そしてソフトバンクやOpenAIなど海外資本による継続的な後押しを受けて、日本はAIの研究開発から工場などの現場実装までを切れ目なくつなぐ産業基盤を築こうとしている。
この新たな道筋が、世界をリードする「日本モデル」として本当に結実するかどうかは、なお時間と市場の検証を待つ必要がある。



