中央アジアの金融覚醒 点心債からIPOへ
(KELLY・東京発)
9月10日、カザフスタン開発銀行が発行した37億元(約760億円)のオフショア人民元建て債券、いわゆる「点心債」が香港取引所に上場した。点心債は香港で発行される人民元建て債券で、オフショア人民元市場の重要な一角を占める。今回の債券は5年物と10年物の2種類で、中央アジアの準政府系発行体による点心債として過去最大規模となった。
単発の資金調達ではない。同月、カザフスタン国営石油・ガス会社カズムナイガスも35億元の点心債を発行し、250億元を超える注文を集めた。応募倍率は7倍を上回る。6月には国営鉄道会社カザフスタン・テミル・ジョリ(KTZ)が香港取引所に上場申請し、調達資金を中国と結ぶ新たな鉄道国境施設の建設に充てる方針を示した。香港政府のポール・チャン財政官は、中央アジアの国有インフラ企業が相次いで香港での資金調達に関心を示していると明らかにした。
債券発行、株式上場、複数市場への上場。相次ぐ動きは、中央アジアが資源の輸出地域から国際資本市場の主体へ変わりつつあることを示す。
まず債券 次に株式上場
中央アジアの「金融覚醒」の第一歩は点心債だった。カザフスタン開発銀行は前年に香港で初めて起債し、今年は発行額を37億元へ拡大した。10年物の設定は、投資家がより長期の信用リスクを受け入れたことを意味する。
カズムナイガスの35億元債には250億元超の注文が集まった。中国国際金融香港、中国銀行香港、中信銀行(国際)、中国工商銀行アジア、シティバンクなどが調整役を務め、表面利率は2.3%、利回りは2.45%だった。
香港取引所でグローバル上場サービス部門を率いる徐経緯氏は、香港の厚いオフショア人民元資金が点心債市場の流動性を支えていると指摘する。9月までに年初来で180銘柄を超える新規債券が香港に上場した。
債券と株式の両輪
債券市場が資金源を提供する一方、株式市場は企業価値を評価し、価格をつける場となる。
KTZは政府系ファンド、サムルク・カズィナの傘下企業だ。売上高は前年比27.41%増の56億4600万ドル、利益は114%増の7億1800万ドルだった。中国との国境を結ぶ全長272キロメートルのバフティ・アヤゴズ鉄道を建設し、越境輸送能力を年間5000万トンから1億トンへ倍増させる計画である。香港上場のスポンサーは中国国際金融(CICC)が務める。
KTZはロンドン、香港、アスタナ国際取引所(AIX)の3市場への上場を計画している。
2025年8月にはタングステン採掘会社の佳鑫国際資源が、香港メインボードとAIXの「一帯一路」市場に同時上場した。香港とカザフスタンで同時上場した初の企業であり、中央アジア初の人民元建て株式でもある。香港では香港ドル、AIXでは人民元で取引される。
香港取引所のボニー・チャン最高経営責任者(CEO)は、同様の企業が今後、何倍にも増える可能性があると述べた。
香港は通路ではなく市場基盤
香港の価値は単なる資金調達ルートにとどまらない。厚い資金、オフショア人民元の流動性、国際投資家から信頼される市場ルールを併せ持つ。
香港取引所は2026年6月、アスタナ国際金融センター(AIFC)とアスタナ国際取引所(AIX)にそれぞれ協力覚書を交わした。対象はグリーンファイナンス、コモディティー、初期段階の鉱山開発向け融資、越境・重複上場、債券上場などに及ぶ。
AIFCは英国のコモンローを採用し、外資100%出資を認め、資本規制を設けていない。両市場の連携の核心は、互いのルールを接続することにある。
香港にはすでに「一帯一路」沿線国・地域の企業100社超が上場し、合計時価総額は3兆4000億香港ドルを超える。ポール・チャン財政官は、香港とグローバルサウスの関係が個別の接点から広域のネットワークへ広がっていると説明する。
金融覚醒を支える論理
変化は突然起きたわけではない。ソ連崩壊後、中央アジアは長く資源供給地域として位置づけられ、資産の価格決定や資本配分に関与する機会は限られていた。
点心債と新規株式公開(IPO)がもたらす最大の変化は、中央アジア企業が国際市場を使い、自らの資産価値を形成し始めたことだ。
市場の厚み、企業統治の透明性、国際財務報告基準(IFRS)の定着など、課題はなお多い。資源から資本へ、さらにルール形成へという転換は始まったばかりである。
37億元の債券、56億ドルの売上高、1億トンの輸送能力目標。これらの数字は、中央アジアが香港のルールと流動性を活用し、世界の資本との関係を組み替えようとしている姿を映し出している。



