ロボカップの舞台裏に見えた中日韓ロボット産業の「温度差」
李達(東京)
7月5日、韓国・仁川。
「ロボットサッカー・ワールドカップ」とも呼ばれるRoboCup 2026が閉幕した。45カ国・地域から59チームがヒューマノイド部門に参加した。競技場では、中国のロボット企業、加速進化(Booster Robotics)のプラットフォームを搭載した清華大学の火神チームが、相手を6対2で破り、ヒューマノイド部門で連覇を果たした。

しかし、優勝の行方以上に注目すべきなのは、競技結果とは別の数字である。参加チームが使用したロボットのうち、70%超が宇樹科技(Unitree Robotics)や加速進化など中国企業の市販製品だった。加速進化だけで38チームにロボットを供給し、二足歩行ヒューマノイドの全カテゴリーで金メダルを獲得した。
同じ競技場を舞台にしながら、中国、日本、韓国の三カ国は、まったく異なる産業の姿を見せていた。
中国:「ハードをつくる」だけでなく「プラットフォームを築く」
かつてRoboCupに参加するチームは、ほぼゼロからロボット本体を作り上げる必要があり、機械設計やハードウエア開発に多くの時間と労力を費やしていた。今年、そこから産業の方向性を示す明確なシグナルが見えた。身体性を持つAI、いわゆる「具身知能」を支える基盤ハードウエアについて、「プラットフォーム化」への共通認識が世界的に急速に広がっているということだ。
参加チームは研究開発の重点を知能そのものに移し、ロボットの基礎能力を成熟したプラットフォームに委ね始めている。加速進化は基盤プラットフォームとして、脚式ロボットの移動制御能力を継続的に高めてきた。それにより、トップレベルのチームは視覚認識、瞬時の意思決定、マルチエージェント協調といった高度なアルゴリズムの開発に集中できるようになっている。
ドイツ・ダルムシュタット工科大学のオスカー・フォン・シュトリック教授は、大会後にこう評価した。「中国のロボットは価格が手頃で、性能も優れている。中国企業がロボットを改良するスピードは非常に速い」
「プラットフォーム化」がもたらしたもう一つの変化は、参入障壁の低下である。関連するシミュレーション開発ツールを活用することで、今大会にはマカオの培正中学からのチームも参加した。同チームは今大会で最年少クラスの参加チームの一つだった。トップクラスの研究室から中学生チームまで、具身知能の開発に参加するハードルは急速に下がりつつある。
競技場での支配力を支えているのは、サプライチェーンの底力だ。2026年第1四半期、中国の各種ロボットの輸出額は合計113億2000万元に達し、製品は世界148カ国・地域に輸出された。現在、中国のヒューマノイドロボットメーカーは140社を超え、年間出荷台数は1万4400台、世界シェアは84.7%に上る。つまり、ヒューマノイドロボット10台のうち8台は中国製ということになる。宇樹科技、加速進化など中国企業6社の出荷台数は、合計で世界市場の74.1%を占めている。
日本:発祥国の「不在」
ロボカップは1997年、日本の愛知県で創設された。しかし28年後、韓国・仁川の競技場で、日本の存在感はきわめて薄かった。
ヒューマノイド競技に参加した日本チームは中型リーグの1チームのみで、小型リーグと大型リーグには参加がなかった。大型リーグの約20チームの中に、日本からのチームは一つもなかった。
ロボカップ日本委員会の岡田浩之理事長は、会場で観戦した後、その理由を「深刻な資金不足」だと語った。日本国内でヒューマノイドロボットを開発する研究室は減少し、市販ロボット製品を購入する余力も乏しくなっている。日本市場で最も安い商用ロボットでも1台200万円はかかり、参加に必要な5台をそろえるだけで1000万円を超える。輸送費や旅費を加えれば、総費用は2000万円を上回る。
韓国・漢陽大学の韓在権教授は、「日本はかつて私の手本だった。だが今、競技場では日本の研究者の姿をほとんど見かけない」と嘆いた。
こうした不在は偶然ではない。日本は精密工学、センサー、モーターなどの分野でなお優れた技術蓄積を持つ。しかしAI研究開発への投資は長期にわたって不足しており、2019年から2023年までの日本のAI投資額は米国の30分の1にも満たなかった。ロボット産業の競争軸がハードウエアから「ハードウエア+AI+ソフトウエア」のシステム能力へ移るなかで、日本は後れを取った。
韓国:開催国の野心と現実との距離
開催国として、韓国は今大会のRoboCupに大きな期待を寄せていた。韓国政府はこの大会を、「AIロボット強国」としての地位を示す重要な機会と位置づけていた。
政策面では、韓国は矢継ぎ早に動いている。政府は「三大スーパー・プロジェクト」を発表し、半導体、AIデータセンター、具身知能・ロボット産業を対象に掲げた。今年、韓国金融委員会はAI、ロボット、次世代自動車などの分野に約16兆ウォンの金融支援を行う方針だ。韓国政府はさらに、2030年までに504億ウォンを投じ、ハードウエア、ソフトウエア、AI、電池などの中核分野をめぐる一体的な研究開発体制を構築する計画である。
しかし競技場での結果は、現実との隔たりを浮き彫りにした。地元開催でありながら、韓国ブランドのヒューマノイドロボットが支配的な存在感を示す場面は見られなかった。漢陽大学の韓在権教授は問題の根源をこう指摘する。「韓国の国内市場規模は大きいとはいえない。それでも政府の支援によって自主開発を実現すれば、関連製品を海外に販売し、収益を生むことはできる。政府は新技術に投資しなければならない」
さらに深刻なのは、コスト面での劣勢である。ある分析によれば、中国・深圳一都市のロボット投資額は約9000億ウォンに達し、韓国全体の総投資額である約1000億ウォンをすでに上回っている。世界のヒューマノイドロボット市場における中国のシェアは86%に達する一方、韓国はわずか1%にとどまる。政策面での意欲と産業の現実との間には、大きな隔たりがある。
競技場の外から見える産業への示唆
仁川の競技場から外に目を向けると、三つの流れがはっきりと見えてくる。
第一に、ヒューマノイドロボットはEVなど新エネルギー車がたどった「中国の道」をなぞりつつある。完成度の高いサプライチェーン、コスト優位、そして迅速な改良・更新サイクルを背景に、「追随者」から「ルールづくりに参加する存在」へと変わりつつある。モルガン・スタンレーは最新の報告書で、2030年の中国市場におけるヒューマノイドロボット出荷台数は44万6000台に達し、2025年から2030年までの年平均成長率は106%に上ると予測している。
第二に、日本のロボット産業の「空洞化」は警戒すべき問題である。かつて世界の最前線にいた日本が、競技場では「不在」となった。日本の教訓は、産業が「ハードウエア主導」から「ソフトとハードの一体化」へ移行する重要な時期に、研究開発投資と産業エコシステムが十分に追いつかなかった点にある。
第三に、韓国には政策面での意欲があるものの、市場規模とコスト面の不利に制約され、短期的には中国のハードウエア領域での優位を揺るがすことは難しい。
中国にとっての警鐘は、コスト優位を持続的に技術的な参入障壁やブランド価値へと転換できるかどうかにある。
次回のロボカップは2027年にドイツで開催される。大会では、人間とロボットがチームを組んで対戦する新種目が設けられる予定だ。競争の焦点は、単一の技術競技から、より複雑な「人間とロボットの協働」へと移っていくことになる。



