
早稲田教師教育研究所 特聘研究員・王智新氏を訪問
2025年、日本を訪れる外国人留学生数は、予想通り過去最高を更新した。しかし、この華々しいデータの裏側では、全く異なる現実が動き始めている。出身国の極端な偏りと、専攻・地域における深刻なアンバランス。国内新卒者の「就職氷河期」が完全に解けている一方で、外国人留学生はいまだに正社員の職を得るために苦闘を続けている。日本政府が「留学生40万人計画」の目標達成に向けて前倒しで祝杯を挙げようとする中、留学生の置かれた現実と政策の理想との間には、大きな隔たりが広がりつつある。本レポートでは2025年を観察の窓口とし、数値の表層の奥に潜む「国際化」への追求と「共生社会」への挑戦の間で揺れる日本の葛藤を浮き彫りにする。

2025年、歴史的記録を更新:輝かしい数字に潜む光と影
2025年12月25日に出入国在留管理庁が発表した10月時点の統計によると、2025年の新規入国留学生数は累計で17万2,906人に達した。11月・12月の入国者数が限定的であることを踏まえ、2025年の年間留学生総数は18万人を上回ることはないと考えられるが、過去最高記録を更新するのは確実である。これはパンデミック後の反動が最大であった2022年の水準をも上回る、統計開始以来の最高値だ。同時に、政府が掲げる「2033年までに留学生40万人受け入れ」という目標が、想定を上回るスピードで前倒し実現に向かっていることを示唆している。2025年の日本留学を取り巻く状況には、いくつかの鮮明な特徴が見られる。
・「単極化」する学生供給源と、脆弱な多様性
この流れを支える核は、依然として中国大陸からの学生である。日本学生支援機構(JASSO)のデータによれば、中国人留学生の数は圧倒的な一位を占めている。同時に、ネパールやベトナムといったアジア諸国からの学生も急速に増加している。微妙な変化としては、欧米圏からの留学生は基盤が小さいものの(全体の約2.2%)、増加傾向にある点だ。これを一部の関係機関は「日本留学の魅力がアジアを越えた証」と見なした。しかし、特定地域への高度な依存という構造は、リスク耐性の観点から懸念材料となっている。
・「私立大学依存」と地域的な集中
留学生の分布には顕著な「二重の偏り」が見られる。第一に、学部生の80%以上が私立大学に集中し、国公立大学は2割に満たない点だ。そのため、積極的な募集活動を行う都市部の私立校に留学生が流れ込む一方、地方の中小規模大学は依然として深刻な定員割れに直面している。第二に、地域分布では半数以上が東京を中心とする首都圏に、2割以上が関西圏に集中している。九州や北海道などの割合は極めて低く、地域格差と都市部の生活コスト圧迫に拍車をかけている。
・「文系という沼」と「理系という高嶺」
専攻分野別では、人文・社会科学系が主流で学部生の約70%を占めている。対照的に、理学や工学などの理工系分野の伸びは鈍い。この文理の偏りは、そのまま就職市場における「二極化」を招いている。
まずは、就職難という現実。 2025年、日本人大学生の平均就職内定率は98%と過去最高水準にある一方、中国人留学生の正社員就職率は44.3%と、極めて厳しい対照をなしている。市場では容赦ない「学歴・専攻」選別が行われており、ITやエンジニアなどの理系職種の就職率が90%を超える一方で、文系留学生の就職率は32.7%に留まる。日本語学校卒業生に至っては、正社員就職率はわずか5.7%である。
次に、日本語の壁。 企業の約9割が面接を日本語で行うことを求め、7割が日本語能力試験(JLPT)のN1またはビジネスレベル以上の能力を要求している。また、就職先の半数以上が従業員50人未満の中小企業であり、キャリアの安定性や将来性には不透明感が付きまとう。
さらに、生活の重圧がある。 留学生の約8割が民間のアパートを借りている。日本特有の複雑な契約慣行や高い初期費用(礼金、敷金、仲介手数料など)は、来日直後の学生にとって経済的・精神的な高いハードルとなり、彼らにとっての最初の「社会への洗礼」となっている。
2025年、政策の転換点:「共生」と「管理」の間で
2025年は外国人関連政策が相次いで打ち出された年であった。その核心は「積極的な受け入れ」と「厳格な管理」のバランスをどこに置くかにあった。
・司令塔の登場:「外国人共生推進室」の設置 2025年7月、内閣官房に「外国人との共生社会実現推進室」が正式に設置された。これにより、これまで法務省や文部科学省などに分散していた外国人事務を横断的に統括する体制が整った。石破茂首相は、外国人の活力を取り入れつつ、犯罪や制度の悪用には「厳格な措置」を講じると強調。国民の不安を払拭することを優先する「秩序重視」の姿勢を明確にした。
・引き締まる法的包囲網:改正出入国管理法 これに呼応し、2025年に「出入国管理及び難民認定法」が改正された。留学生の在留資格と専攻の整合性に関する要件が緩和され、キャリアチェンジの柔軟性が高まった一方で、不法就労を助長する企業への罰則が強化された。さらに、年金や税金を長期にわたって滞納した外国人の永住権を取り消すという厳格な条項が盛り込まれた。「ルールを守る貢献者は歓迎するが、違反者は厳罰に処す」という強いメッセージである。
・日本語試験の国際化:JLPTとCEFRの連携 2025年12月より、日本語能力試験(JLPT)の成績証明書に、国際標準の言語指標である「CEFR(ヨーロッパ言語共通参照枠)」との対照レベルが付記されることになった。これにより、日本の教育評価を国際基準と整合させ、留学生が日本語の成績を欧米の大学進学やグローバルなキャリアパスに活用しやすくする狙いがある。
・世界的な日本語熱:学習者400万人突破と「来日予備軍」 国際交流基金の調査によれば、海外の日本語学習者数は史上初めて400万人を突破した。特に中国の学習者は105万人を超え、世界最多である。注目すべきは、中国などで民間日本語塾が急増している点だ。これらは「日本留学の前哨基地」として機能しており、今後の継続的な流入を示唆している。一方で、米国などがSTEM教育を優先し日本語クラスを縮小していることは、教育における不均衡を象徴している。
・人材の「戦略的」争奪:J-RISE計画の始動 米国の政策変動などの国際情勢の変化に対し、日本は迅速に人材獲得に動いた。内閣府は2025年6月、1,000億円規模の基金を投じた「J-RISE」計画を始動させた。世界中(特に米国)からトップクラスの研究者を招聘し、世界水準の待遇を提供することを目指している。これは、高度専門職と一般労働力を明確に分けた、日本の精緻な階層別受け入れ戦略を象徴するものだ。
(小見出し三)2026年への展望:狭まる門戸と高まるコスト
2025年の政策動向を踏まえると、2026年以降の日本留学環境は、以下のような厳しいトレンドに向かうことが予想される。
第一に、「審査の厳格化」である。ビザ審査において、申請書類や経歴(特にSTEM分野などの機微技術に関連する専攻)の真正性をより厳しく精査する動きが強まると見られ、許可率に影響が出る可能性がある。また、社会的な右傾化や国民感情の影響を受け、留学生が日常生活で感じる無形のプレッシャーが増すリスクもある。
第二に、「経済的負担の急増」だ。ビザ手数料の大幅な引き上げ(最大5倍検討)は、留学の心理的・経済的なハードルを高くする。加えて、日本の継続的なインフレにより学費や生活費が高騰しており、かつての「安価で質の高い留学先」という優位性は失われつつある。さらに、中国人留学生などを対象とした「アルバイトの免税措置」の廃止が検討されており、これが実現すれば、アルバイトで生計を支える多くの学生に深刻な打撃を与えるだろう。
最後に、「就職の門戸の縮小」である。「外国人の融和」を巡る世論が白熱し、企業が国内新卒者の採用意欲を回復させる中で、留学生が卒業後に就労ビザを取得し、正社員の職を得る難易度は上昇し続ける。政策は「高度人材」を求めているが、多数を占める一般的な文系卒業生にとって、日本のビジネス社会へ続く道は、より狭き門になろうとしている。
【記者コメント】揺らぎは、打開への道ではないKelly
2025年のデータは、留学先としての日本の人気が衰えていないことを証明した。しかし、表層の繁栄は構造的な歪みを隠しきれていない。政府が追求する「量」の目標は達成されようとしているが、「質」の融合――留学生の地域分散、専攻の最適化、そして何より公平で効率的な就職への移行――は、いまだに困難な状況にある。
日本政府はこの1年間、矛盾する二面性を見せてきた。片方の手で「国際化」と「人材争奪」の旗を高く掲げながら、もう片方の手では「管理」と「秩序」の手綱を強く締め直している。未来の留学生にとって、日本はもはや「コストパフォーマンスが高い」あるいは「簡単に定住できる」といった安易な選択肢ではない。より緻密な費用計算、明確なキャリア設計、そして強靭な異文化適応力が求められる、真に「挑戦」が必要な場へと変貌している。
日本留学の物語は、単なる「学びの記録」から、日本社会がいかにグローバル化とアイデンティティの間で均衡を見出すかという「ミクロ・ドキュメンタリー」へと進化した。その次の章は、変化し続ける政策と、個々の運命のしなやかさによって書き綴られることになる。結局のところ、揺らぎ続けるだけでは、この袋小路を抜け出す道は見えてこないのだ。




