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(年末ウォッチ)テクノロジーが進化するほど、なぜ人々の「不安」も強まるのか?

【はじめに|テクノロジーは富を生む一方、不安も増幅させている】

(アジア財経インサイト記者 元音12月22日 東京)データの上では、テクノロジーは世界をより豊かな未来へ導いているように見えます。AIモデルの進化、半導体生産能力の飛躍、そして過去最高値を更新し続けるハイテク株。しかし、その華々しい物語の裏側で、人々はかつてないほどの不確実性を感じています。

テクノロジーが進歩するほど焦燥感が広がる――この矛盾した現象は、今や世界共通の感情になりつつあります。その核心にあるのは、テクノロジーの進化速度が、社会制度や個人のスキル、キャリアへの安心感の更新速度をはるかに上回っているという現実です。

ハイテク株高騰の陰で、雇用はより不安定に

テクノロジーが生み出す価値は、まず株主や経営者に分配され、必ずしも労働者に還元されるわけではありません。技術によって効率が向上したとき、企業がまず検討するのは人手の補充ではなく、余剰人員の削減です。「資本市場は潤うが、雇用の安定には繋がらない」という皮肉な現象が起きています。

事例|「シリコンバレーの熱狂」と「雇用の冷え込み」というコントラスト

2025年9月のデータによると、ウォール街で圧倒的な存在感を示す「マグニフィセント・セブン」(GAFAMなどのハイテク大手7社)は、S&P500指数の約35%を占めています。彼らの純利益は2026年に15%以上、収益は13%の成長が見込まれています。しかし一方で、これら企業による人員削減の波は、11月7日時点で累計10万人に達しました。

こうした冷徹な数字の裏では、社内チャットで互いを慰め合う従業員たちがいる一方で、経営陣は「効率的な組織改編」を祝っている光景があります。株価の上昇と失業が同時に進行するこの状況は、「テクノロジーが企業を強くするほど、従業員を弱くする」という、労働力の依存度低下を如実に物語っています。

AI投資ブームの影で、真っ先に消される初級職

かつて技術による代替は、製造や物流などの「ブルーカラー」の定型業務が中心でした。しかし現在は、ホワイトカラー、特に初級職にもその波が押し寄せています。

事例|「報告書を書けるAIは、新人より安い」

英国の求人サイト「Adzuna」の2025年6月データによれば、英国の初級職(エントリーレベル)の求人数は2022年比で31.9%減少しました。特に小売業の初級職はAIの影響を最も強く受け、求人数が78.2%も激減しています。英通信大手のBTグループは、2030年までにAIによって1万人規模の職務を代替する方針を示しています。

ある英国の会計事務所が生成AIを導入した際、それまで3人のジュニアアナリストが2日間かけて作成していた監査報告書が、今では1人のマネージャーがAIの出力を20分チェックするだけで済むようになりました。その結果、同社はその年の初級職の採用を完全に凍結しました。少なくとも現時点で、テクノロジーの衝撃はトップの意思決定者ではなく、実務を担う中堅や若手のポジションを、目に見える速さで圧縮し続けています。

集中する技術の恩恵、追いつかない分配機能

テクノロジーはかつてない富を生み出しましたが、その分配方法は進化の速度に追いついていません。利益の大部分は資本家、起業家、希少な技術を持つ一部の層に吸収され、過半数の労働者の賃金や生活水準は停滞したままです。

言い換えれば、テクノロジーは効率を高めましたが、多くの人の生活実感は改善していないのです。

事例|スウェーデンのエンジニアが感じる「給与の壁」

スウェーデンのストックホルムで10年近いキャリアを持つソフトウェアエンジニア、アレン・ジョン(仮名)氏はこう嘆いています、

「私の会社が開発したAIモデルの価値は、エンジニア300人分以上に相当すると言われている。しかし、私の給料はここ3年全く上がっていない」

さらに皮肉なことに、同じ時期、AIの大規模な資金調達に成功した創業者の純資産は、わずか1年で3倍に膨れ上がりました。イノベーションの収益は極端に集中し、分配システムは取り残されています。

失業への恐怖以上に深刻な「スキル不安」

現在、人々が感じているのは単なる失業への恐怖ではなく、強烈な「スキル不安(スキル・アノミエ)」です。職がすぐに奪われるわけではなくても、次々と現れる新しい技術やツールを使いこなせなければ、いつ淘汰されるか分からないという圧迫感です。

「新しいツールを使いこなせなければ、この業界で生き残っていけるだろうか?」

こうした疑問が、多くの人の心に、拭い去れない不安としてこびりついています。こうした焦燥感は、中堅のホワイトカラーや技術職の間で特に顕著です。

日本の広告代理店で働くある中堅アナリストは、このように語ります、

「毎日のように新しいデータ分析ソフトやAIプラットフォームが登場します。学び続けなければ、作業効率も、プロフェッショナルとしての競争力も、あっという間に取り残されてしまいます」。

「スキル不安」の特徴は、失業のように劇的ではないものの、より持続的で目に見えにくい点にあります。たとえ今の職を維持できたとしても、常にプレッシャーと緊張感、「明日は我が身」という先行きへの不透明さにさいなまれるのです。

事例|韓国電子大手の中堅エンジニアの苦悩

ソウルの電子大手メーカーに勤務するエンジニア、キム・イフン(仮名)さん(38歳)は、会社からAIコーディングツールの習得を義務付けられています。共働きの彼は、退社後も子どもの送迎や家事に追われていますが、会社からは「AIを学ばなければ、居場所はなくなる」と通告されています。

「失業したわけではない。ただ、ソフトウェアのように『永遠にアップデートし続けろ』と強制されている気分だ。夜、子供と一緒にいるときも頭の中はコードやアルゴリズムでいっぱいで、一息つく暇もない」。

キムさんの経験は、現代のビジネスパーソンが直面する現実を象徴しています。たとえ現職が安定していても、技術更新の速さが人々に常に緊張を強いており、生活そのものが加速装置にかけられたような不安を感じさせているのです。

【記者コメント】

テクノロジーに罪はない。社会の準備が不足している

元音

分配制度は旧来の枠組みに留まったままで、技術の恩恵が大多数の労働者にまで及んでいません。教育や再訓練の仕組みもAI時代のスピードに追いつけず、従来の労働保護制度も急速に変わる雇用形態に適応できていないのが現状です。

AIや自動化が進む中、ある者は「自分に価値が残るのか」を恐れ、またある者は「置き換えられるのではなく、振り落とされる」ことに怯えています。テクノロジーそのものが脅威なのではなく、それがもたらす「未来への不確実性」が拡大し続けていることこそが、この時代の不安の正体なのです。

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