カザフスタンのAIデータセンター拡張、電力インフラは追いつくか

李達=東京

カザフスタン北東部エキバストゥズで進む「データセンター・バレー」では、出力50メガワットの第1期施設が2027年6月の稼働開始に向けて建設されている。カザフスタン国営通信が2026年10月19日に報じたところによると、Firebird AIとNVIDIAが事業に参画し、第1期向けに容量215メガワットの変電所を整備する。将来的には段階的に1ギガワットまで拡張する計画だ。

建設地のエキバストゥズには大規模な石炭火力発電拠点がある。ニュースサイト中国経済網は、地元の大規模石炭火力を利用し、安定したベースロード電源を確保すると伝えている。電源立地だけを見れば、準備不足の計画ではない。

ただ、AI向けの計算基盤は大量の電力を必要とする。カザフスタンの電力系統は2026年8月、広域停電につながる大きな動揺を経験した。問題は電力の有無ではなく、地域間の連系や予備力にどれだけ余裕があるかだ。

8月14日に何が起きたのか

カザフスタン送電公社KEGOCによると、2026年8月14日午後2時37分、国内の統一電力系統で動揺が発生した。500キロボルトのアガディル―ウルケン線(L-5300、L-5320)とアクトガイ―タルディコルガン線(L-5400)が緊急停止し、南部電力系統は中央アジア統一電力系統から切り離され、単独運転に移行した。約2810メガワット分の需要家への供給が遮断された。

KEGOCは当初、中央アジア統一電力系統側で電力潮流が急増したことが原因との見方を示した。キルギス・エネルギー省はその後、トクトグル水力発電所の発電機2基が一時停止したことを「最初の動揺」と認める一方、他国の一部系統で起きた停電の直接原因と同一視すべきではないと主張した。アルマトイの停電は周波数が回復した後に発生したとも指摘しており、責任の所在をめぐる見解は一致していない。

確認できるのは、広域連系された系統で電力潮流が乱れた際、カザフスタン国内で連鎖的な送電線停止が起きたことだ。南部系統が単独運転を迫られた事実は、南北の基幹送電線に、動揺時も同期を維持できるだけの余裕がなかったことを示す。ただし、この事故だけでエキバストゥズの電力供給が不安定だとはいえない。同市は北東部の石炭火力拠点に隣接しており、その供給計画と南部系統の脆弱性は分けて考える必要がある。

設備の老朽化率は何を示すのか

カザフスタンの電力設備が老朽化しているのは事実だ。ただし、数値が何を対象にしたものかを確認しなければならない。

S&Pグローバルが2026年に公表した報告によると、2024年1月1日時点で、カザフスタンの在来型発電所にある主要設備の平均減価償却率は56.8%だった。全発電所の3分の1超で設備の摩耗度が70~90%に達し、事故の多くは80%を超える発電所で起きている。この数値が示すのは発電所設備の状態であり、送電網やデータセンターが接続する個別回線の状態ではない。

元の原稿にあった「摩耗率65~70%」という数値については、公開資料で対応する公的統計を確認できなかった。より正確にいえば、同国の電力システムには深刻な老朽化問題があるものの、データセンター・バレーへの供給信頼度を判断するには、接続方式、予備容量、送電網の更新計画を個別に見る必要がある。全国一律の減価償却率だけでは判断できない。

215メガワットと1ギガワットの間にある課題

第1期の需要50メガワットに対して変電所容量は215メガワットあり、数字の上では余裕がある。ただ、変電所は発電設備ではない。容量が示すのは系統への接続能力であり、電源そのものの確保ではない。将来1ギガワットまで拡張するには、発電能力と送電能力を段階的に増強しなければならない。

中国経済網によると、カザフスタン・エネルギー省は2029年までに安定した電力余力を確保し、高密度のAI計算基盤を受け入れられるとみている。一方、現地メディアOrda.kzはより具体的な時間軸を示す。出力2640メガワットのエキバストゥズ第3火力発電所(GRES-3)はすでに建設段階に入ったが、発電設備が順次稼働するのは2029~2032年の見通しだ。データセンター・バレーの第1期が稼働する2027年には、新たな石炭火力の供給力はまだ加わっていない。

Orda.kzが引用した地元エネルギー専門家によると、GRES-3の稼働前にデータセンター・バレーへ割り当てる300メガワットは、主に既存の発電能力で賄わざるを得ない。設備を稼働させる順番が極めて重要になるという。データセンターが新規電源に先行した場合、需給バランス、卸電力価格、ピーク時の系統運用にどのような影響が出るかは、具体的な給電計画によって変わる。

つまり、電力がないのではなく、新しい電源とデータセンターのどちらが先に稼働するかが問題だ。2027年に始動する第1期の50メガワットは決して大規模ではなく、既存の石炭火力の余力で賄える可能性が高い。ただし、1ギガワットへの拡張時期を左右するのは、データセンターの工事進捗ではなく、GRES-3と送電網増強の進み具合である。

改めて問われる電力供給の時間差

カザフスタンのAI計算基盤構想と電力インフラの間にある緊張は、「電力網がすでに限界に達した」という意味ではない。8月の事故が示したのは地域間連系の脆弱さであり、エキバストゥズの供給不足を裏付けるものではない。

問うべきなのは時間差だ。2027年に稼働するデータセンターは既存の石炭火力の余力を使う一方、1ギガワット計画を支える新規電源は2029年以降に順次稼働する予定だ。この数年間をどのような給電計画でつなぎ、どれだけの予備力を確保するのか。公開資料からは全体像が見えない。

エネルギー省の見通しどおり2029年に安定した電力余力が生まれるなら、データセンター・バレーの拡張はGRES-3の稼働日程に合わせる必要がある。ところが、データセンターの投資判断と建設期間は、一般に石炭火力発電所より短い。どちらが待つことになるのかは、個別の契約や給電協定を確認しなければ分からない。

アルマトイの地下鉄が止まった時期にも、データセンター・バレーではエネルギーセンターの基礎工事が進んでいた。既存の送電網が広域系統の動揺にさらされる一方、新たな大口需要は独自の日程で近づいている。両者をどう調整するか。その答えはデータセンターの工程表ではなく、送電網更新と新規発電所の稼働予定表にある。

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