バーレーンの「ゴールデンライセンス」が揺さぶる湾岸の投資誘致競争

九日=東京発

バーレーンは11月1日、投資フォーラム「Gateway Gulf」で4件の「ゴールデンライセンス」を一度に交付した。投資総額は38億9000万ドルに上る。対象となったのは、DHLによるバーレーン国際空港の地域整備拠点、エアアジアの親会社Capital Aが主導する航空ネットワーク拡充、メリア・ホテルズとの海浜ホテル開発、デジタルシティ・バーレーンによるICTイノベーション教育センターの4事業だ。

サウジアラビアのNEOMに代表される1000億ドル規模の巨大事業と比べれば、金額は小さく見える。しかし4件を一つの動きとして捉えると、ポスト石油時代に外資を呼び込もうとする湾岸諸国の三つの戦略が浮かび上がる。

バーレーンのゴールデンライセンス

4は、それぞれ異なる4分野にまたがって認可された。バーレーンが狙っているのは、事業規模の大きさではない。

ゴールデンライセンスは、バーレーンが2023年に導入した投資認可制度だ。投資額が5000万ドル以上、または現地で500人以上を雇用する事業が対象となる。用地取得の優先措置や、行政手続きのワンストップ対応、バーレーン開発銀行や労働基金による支援などが受けられる。今回は4件分の、総額38億9000万ドルをまとめて認可しており、誘致のペースが明らかに速まっている。

バーレーンがこの戦略を選ぶ理由は、経済統計に表れている。同国の財務・国家経済省によると、2026年1~3月期の実質GDPは前年同期比で3.8%減少した。石油部門が37.2%落ち込んだ一方、非石油部門は2.2%増を維持した。政府は、石油部門の急減について、ホルムズ海峡の航行制約と計画保守が主因だとしている。

非石油部門は実質GDPの90.1%を占め、経済多角化は着実に進んでいる。それでも石油部門の短期的な変動だけでGDP全体がマイナス成長に陥り、外部からの弱さは残る。バーレーンには非石油産業をさらに育て、投資誘致を成長につなげる以外に道はない。

湾岸3カ国の投資誘致戦略

4件のライセンスからは、湾岸諸国が採る三つの投資誘致モデルが見えてくる。ポスト石油時代を見据え、各国は同じ外資を奪い合っているが、使える手段は大きく異なる。

サウジアラビアは「政府系資本主導型」だ。政府系ファンドの公共投資基金(PIF)がNEOM、紅海開発、Qiddiyaなど数百億ドル規模の巨大事業を率いる。ファンドは「未来への期待」だ。しかし資金は無限ではない。2025年以降、NEOMの都市開発「The Line」は工事が止まり、PIF総裁は次の段階で同基金の資金負担を減らす方針を示した。政府系資本だけでは産業基盤を一式そろえられないため、サウジは戦略を修正しつつある。HUMAINとDataVoltがOxagonで計画するAIデータセンターは第1期だけで360メガワット、このうち100メガワット分は2028年の稼働を見込む。政府系ファンドが基盤を整え、海外のテクノロジー大手を呼び込むことで、「都市建設への投資」を「計算資源への投資」に転換しようとしている。

アラブ首長国連邦(UAE)は「フリーゾーン網」を武器にする。40を超えるフリーゾーンがあり、ドバイ国際金融センター(DIFC)とアブダビ・グローバル・マーケット(ADGM)は独自の法制度と裁判所を備える。外資100%出資が認められ、資本や利益の海外送金も自由だ。UAEが提供するのは制度の予見可能性である。ただし、免税や独自裁判所だけでは、製造設備やサプライチェーンを必要とする企業をつなぎ留めにくい。そこでKIZADなどの工業団地やグリーン水素にも力を入れ、実体経済の基盤を補おうとしている。

バーレーンは「重点案件への迅速な認可」で対抗する。国の規模が小さく、サウジの資本力にもUAEの拠点網にも及ばない。そこで行政の速さを売り込む。ゴールデンライセンスは、行政効率を投資誘致の手段に変える制度だ。審査や用地取得が速く、政府の専任担当者が支援する。巨大企業にとって決定打とは限らないが、短期間で事業を立ち上げたい企業には明確な利点となる。

綱渡りを続けるバーレーン

三つの戦略は、各国が世界のサプライチェーンで異なる役割を探していることを示す。

バーレーンの狙いは明確だ。サウジと巨大都市を競わず、UAEと地域統括拠点を奪い合うこともしない。航空機を整備し、旅行者を受け入れ、貨物を中継し、IT人材を育成する。湾岸経済を支える「業務運営の後方拠点」を目指している。

この戦略の行方を左右する要因は二つある。第一は、湾岸地域への投資流入が増え続けるかどうかだ。サウジとUAEが外資を吸収すれば、バーレーンは中継型経済の分け前さえ得られない恐れがある。第二は財政余力である。バーレーンは湾岸協力会議(GCC)加盟国の中で信用力が最も弱く、債務負担が重い。サウジの財政支援にも依存する。誘致した投資は雇用や税収を生むが、成果が出るまでには時間がかかる。一方、財政負担は目前の問題だ。

バーレーンは綱渡りを続けている。同国はGCCで石油埋蔵量が最も少なく、GDPの9割を非石油部門が占める。資源や市場規模ではなく、「他国より速く事業を始められる」という制度そのものを商品にしなければならない。

ポスト石油時代の競争

総額38億9000万ドルの4件は、湾岸全体の巨額投資競争では小さい。それでも、ポスト石油時代の投資誘致には、政府系ファンドとフリーゾーン以外の選択肢もあることを示した。小国でも制度設計によって、大国の間に居場所を見つけられる。問われるのは、その地位をいつまで維持できるかだ。

サウジは政府系ファンドの効率を高めようとし、UAEはフリーゾーンに製造業を根付かせようとしている。バーレーンは認可の速さを生存戦略に変えようとしている。

ただし、バーレーンの優位性は、サウジやUAEが中規模案件をまだ本格的に取りに来ていないことを前提とする。PIFが地域の業務運営拠点を組織的に誘致し始めたとき、ゴールデンライセンスでDHLのような企業を引き留められるのか。次に注目すべき点である。

バーレーンは、大国には大国の戦い方があり、小国にも小国の生き方があるとみている。5000万ドル規模の案件一つひとつを、大国以上に重視するという賭けだ。

しかし、これはバーレーンだけの賭けではない。脱石油を目指す湾岸諸国の競争は、資金量ではなく、世界のサプライチェーンで他国が代替できない役割を確保できるかどうかで決まる。サウジとUAEはなお模索を続ける。バーレーンは一つの役割を見つけたが、それを守れるかは今後の競争次第だ。

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