ベトナム9%成長の裏側 外資と輸出を国内産業の力に変えられるか

元音=東京

ベトナムの2026年7~9月期の経済指標は目を引く。実質GDPは前年同期比9.95%増、1~9月期では9.01%増となり、15年ぶりの高い伸びを記録した。国際通貨基金(IMF)は通年成長率を8.4%と予測する。1人当たり名目GDPは5259ドルに達し、インドネシアの5153ドルを上回る見通しだ。数字だけを見れば、上位中所得国入りに向けて加速する経済状況である。

ただし、成長の内訳を見ると、問われているのは外需への依存そのものではない。海外から得た機会を、国内の産業力に変えられるかどうかだ。9%成長は実績だが、持続可能な成長になるまでには距離がある。その距離を縮められるかは、国内産業の成長速度にかかっている。

9%成長を支えた要因

7~9月期の工業・建設業は12.5%増え、GDP成長への寄与率は51.57%だった。この数字は製造業の力強さを示す材料として引用されることが多い。しかし、工業・建設業の付加価値には製造、鉱業、建設など複数の分野が含まれる。12.5%は合計値であり、公共投資が工業成長を直接押し上げたとまでは言えない。ベトナム財務省統計局の当局者は、公共投資への執行加速が生産活動と建設を支えたと説明している。1~9月期の国家予算による投資実行額も前年同期比19%増えた。ただし、これは要因別の統計ではなく、当局者による評価である。公共投資が加速し、建設業が恩恵を受けていることは確かだが、工業・建設業の高成長の相当部分を公共投資が生み出したとは断定できない。

貿易統計はより明確だ。1~9月期の輸出は約24.5~25%増えた一方、輸入は36.7%増加し、モノの貿易収支は約194億ドルの赤字となった。輸出以上に輸入が伸びた。輸入品の中心は電子部品、機械設備、原材料など、組み立て後の再輸出に使う中間財である。ベトナムが長年採ってきたこの生産モデル自体に問題があるわけではない。世界の生産ネットワークでは、中間財を輸入して製品を輸出することは一般的だ。重要なのは、その過程で国内にどれだけの付加価値が残るかである。

対米黒字首位は交渉材料であり弱点でもある

2026年1月のベトナムの対米貿易黒字は19億ドルとなり、初めて中国とメキシコを上回った。これは米国にとって最大の貿易赤字相手国になったことを意味する。2025年通年の米国の対ベトナム貿易赤字は1780億ドルに達した。2026年1月のベトナムから米国への輸出は前年同月比53%増えた一方、中国からの輸出は46%減少した。

この立場が持つリスクを、ベトナム政府も理解している。米国は第三国を経由した迂回輸出品に40%の関税を課す方針を示しているが、ホワイトハウスは具体的な認定基準をまだ公表していない。ベトナムに適用される相互関税は20%だが、中国製品の対米輸出の抜け道ではないと証明する必要がある。

ベトナムは迂回輸出の監視制度を導入し、米越貿易協定の交渉も進めている。しかし構造的な矛盾は残る。対米黒字が増えるほど、ワシントンの視線は厳しくなる。一方、その黒字を維持するには、中国からの中間財輸入が欠かせない。2026年上期、ベトナムの対中輸入は1152億ドル、対中赤字は773億ドルに達した。同じ期間の対米黒字は1140億ドルだった。「中国が部品を供給し、ベトナムが組み立て、米国へ輸出する」という三角構造が、ベトナム製造業の実像である。

ベトナムが排除できるのは、ラベルの貼り替えや原産地偽装といったリスクの高い迂回輸出だ。組み立て工程そのものが輸入中間財に依存する構造は、短期には変えられない。対米黒字が増えるほど、この構造は目立つ。

FDIは登録額より実行と波及効果が重要

1~9月期の海外直接投資(FDI)登録額は503億6000万ドルで、前年同期比76.4%増えた。実行額は210億7000万ドルで12.1%増だった。いずれも伸びたが、登録額の伸び率は実行額の6倍を超える。

以前の原稿では、1月単月のデータを基に、既存案件への追加投資が減少しているとしたが、これは誤りだった。1~9月期の追加投資は141億5000万ドルで、前年同期比25.1%増えている。注目すべきなのは投資の縮小ではなく、登録から実行までの時間差と実現状況だ。登録額と実行額は対象時期が異なるため、同じ案件の単純な転換率として計算することはできない。それでも、急増した登録額が今後数年で実際の投資に移り、国内の産業力につながるかどうかが重要になる。

FDIの中身も検証が必要だ。実行額の82.7%を加工・製造業が占め、ベトナムはなお組み立て・加工拠点としての性格が強い。サムスンがベトナムで運営する主要4工場の2025年売上高は約621億ドルで、同国の輸出総額の13.7%に相当した。しかし、取引先の多くは外資系の関連企業で、ベトナム企業の参加は限られる。2026年1~5月期の輸出は、国内企業が2.5%増にとどまったのに対し、外資系企業は24.7%増えた。

電子産業の現地調達率が低いことは、ベトナム政府も認めている。商工省輸出入局の副局長は10月の会議で、電子機器の生産は輸入部品や原材料への依存度がなお高く、現地調達率と国内で生み出す付加価値が不足していると指摘した。ベトナムは世界の電子製品輸出国の上位10カ国に入ったが、組み立て型の生産拠点から、世界のバリューチェーンに深く組み込まれた産業拠点への転換は道半ばだ。

行政改革は重要だが唯一の手段ではない

ベトナムは省級行政単位を63から34に再編し、県級を廃止して省と基礎自治体の2層体制に移行した。制度運用にかかるコストを下げられれば、経済にとって確かな利点となる。ただし、政府が自ら進められる政策は行政改革だけではない。教育・職業訓練、エネルギー供給、物流、金融制度、国内サプライヤーの育成も改善できる。行政改革は重要な政策の一つだが、「自国で完全に決められる唯一の要因」とするのは正確でなく、政策の余地を過小評価することになる。

より重要なのは変化の速度だ。行政改革が効果を上げるには時間がかかる。一方、関税を巡る環境、技術サイクル、外資の投資判断は速く動く。アジア開発銀行(ADB)が9月にベトナムの2026年成長率予測を引き上げた際、同国担当責任者は、投資主導の成長を生産性向上につなげる必要があると指摘した。重要なのは生産性への転換である。投資が生産性を高めれば成長は持続する。資本と労働力の投入だけに頼れば、いずれ収益率は低下する。

問われるのは成長率ではなく転換力

ベトナムの成長は実態を伴っている。四半期の9.95%成長、5年ぶりの高水準となったFDI実行額、インドネシアを上回る1人当たりGDPはいずれも成果だ。行政改革の方向も間違っていない。

それでも9%成長を維持できるかどうかは、成長率そのものではなく、いくつかの転換過程に左右される。FDI登録額が実行投資に移るか。実行投資が国内サプライヤーを育てるか。輸出の拡大とともに国内付加価値率を高められるか。行政改革が外部リスクの顕在化に先行できるかである。

商工省が掲げる方向は明確だ。生産・組み立て拠点から、世界の電子サプライチェーンでより高い付加価値を生む工程へ移ることである。方向は妥当だが、産業転換には時間がかかる。これに対し、対米黒字への監視、関税政策の不確実性、世界的な技術サイクルは速く変化する。

IMFはベトナムの2027年成長率を約7.5%と予測する。予測通りなら、同国にはなお数年の猶予がある。その間に現地調達率を高め、登録されたFDIを実行に移し、行政改革で制度コストを下げられれば、9%成長は次の成長局面の出発点になり得る。国内産業への転換が遅れ、外部環境の好機が先に失われれば、9.95%が今回の景気循環のピークとなる可能性もある。

ベトナムの選択肢は多くないが、何もできないわけではない。ただし、成長の物語の中で、自ら決められる部分がまだ十分に厚くないことがは問題だ。その厚みを決めるのはGDP成長率ではなく、実際にサプライチェーンへ参入できるベトナム企業の数である。

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